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中米諸国、米国とのFTA交渉で農業補助金相殺を提案へ

農業情報研究所(WAPIC)

03.9.1

 キューバを除く米州全体の自由貿易協定(FTAA)交渉が進められているが、ブラジル等が米国の農業補助金撤廃を強く要求、米国が譲らないために交渉が難航している。米国は、政治・経済力の圧倒的優位を利用して自国に有利な協定を押し付けようとしたもののの、抵抗は予想外に強いものであった。チリとは既に思惑通りのFTA締結に成功したが、FTAA交渉に弾みをつけるにはそれだけでは足りない。今年1月には、ブラジルなど南米有力国よりもすっと弱い立場の中米5ヵ国(コス・タリカ、エル・サルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア)と、早期妥結を目指した自由貿易協定(CAFTA)交渉を開始した。これによって、南米諸国の抵抗をなし崩しにしようとする思惑がある。ところが、いまやここでも強い抵抗が起きているようだ。lexisnexis.comが伝えるところによると(*)、9月15日の第7回交渉を前に、中米側は、米国が農業補助金の撤廃を拒否しているために、特定農産物への米国の補助金に見合う関税や割当による特別な補償措置を持ち出したという。

 中央アメリカ諸国農民は、FTA締結の結果、補助された米国農産物が国内市場に氾濫するのではないかと恐れ、安全保障のための保護メカニズムを要求してきた。国内の特定農産物の手厚い保護を定める米国農業法は、既に。豚肉・トウモロコシ・大豆・ピーナツ・牛乳・乳製品などの中米諸国市場に重大な影響を与えており、逆に中米の重要輸出農産物である砂糖・ピーナツ・乳製品は、米国の特別な輸入割当に服している。先月27日、国際開発NGO・Oxfamは、1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)により米国との間の貿易障壁を取り払われたメキシコでは、補助金を与えられた米国トウモロコシが生産コスト以下の価格で洪水のごとく押し寄せ、数百万のメキシコ小農民の生計を破滅に追い込んでいるという報告を発表した(⇒Press release,Report:Dumping without borders)。CAFTAが成立すれば、中米諸国も同様な運命を辿るであろうことは目に見えている。新たな提案は、これら諸国政府も、農民の懸念と要求を無視しては交渉を進められないと認識したためであろう。

 ブラジル等の強い要求をかわすために、米国は、農業補助金問題をWTO農業交渉で議論しようと逃げ腰となっている。ところが、このWTO交渉でも、先進国の農業補助金大幅削減・撤廃は途上国の最優先要求となっている。もう一方の世界のリーダー・EUと共同すれば途上国の抵抗も抑え込めるだろうと、お互いに農業補助の現状を実質的に変えることのない共同提案を編み出した。しかし、これも、中国がバック・アップするインド・ブラジルなど有力途上国の提案で片隅に追いやられてしまった。米国に次の手はあるのだろうか。先進国主導の貿易自由化路線に翳りが見えてきた。

 *Central American countries tackle U.S. ag trade issues under CAFTA(03.8.28)

 関連情報
 
インド、中国、ブラジル等、WTO農業交渉で新提案,03.8.21
 
メキシコ:農民援助に合意 構造改革の行方は?,03.5.3