農業情報研究所グローバリゼーション農水産物・食料品貿易ニュース:2020年1月3日(1月6日追記)

日米貿易協定発効 日本の牛肉農家が生き残る道は?抗生・成長促進剤禁止

日米貿易協定が発効した。牛肉の関税率は、TPP発効1年目と同様、38.5%が26.6%に削減される(その後1年ごとに1%ずつ削減)。TPP発効1年目、カナダ産牛肉の輸入はほぼ倍増(95%)した(TPP発効1年 食肉、果実で輸入攻勢 日米控え警戒強まる 日本農業新聞 19.12.31)。同様に、今年は米国産牛肉の輸入が急増するだろう。農水省は和牛・乳牛の増頭奨励金などを新設する「国内対策」で国内生産者の生産量を維持するということだ(日米貿易協定が発効  日本農業新聞 20.1.1)。しかし、そんなことでアメリカ、カナダ、オーストラリアなどの安価な牛肉に対抗できるはずがない(注)。そんな国内対策費はカネをどぶに捨てるようなものだ。なんとしても輸入激増を防ぐ。それが先決だ。

どうしたら輸入激増が防げるのか。いい見本がある。

EUとカナダの包括的経済貿易協定(CETA)は2017年に発効した。カナダ農民はEUへの農産物輸出が飛躍的に伸びると期待を膨らませた。だが、2018年、カナダ農産物の対EU輸出は前年より15%減った。これは、一部、抗生剤、成長促進剤を禁じるEUの厳格な基準のためだ。農家はEU基準を満たしているという獣医の認証を受けねばならない。認証を受けるためには、折角手にした効率的な先端技術を棄てねばならない。EUに輸出するため(だけ)にそんなことはできない相談というわけだ。

Canada’s farmers struggle to reap gains from EU free trade deal,FT.com.20.1.2

   だとすれば、輸入激増を防ぐには牛肉安全基準をEU並みに改めればいい。そんなことができるはずがない?今の政府の下では確かにそうだ。ただ、そうでもしないと日本の牛肉農家はみな潰れてしまうと言いたいだけだ。

(注)「日本で比較的安い交雑種の部分肉仲間相場(卸売価格、二〇一五年三月-二〇一六年一月平均)は、ばらがキロ一五〇〇円ほど、かた・ももは二三〇〇円超、サーロインは四九六〇円だが、米国産の輸入価格(二〇一五年)を見れば、生鮮・冷蔵品のばらが七六六円、かた・うで・ももが九九二円、ロインでも一六九八円、三八・九5%の関税がなければ、各々五五三円、七一六円、一二二六円になる。さらにオーストラリア産となるとさらに安い。日本産牛肉価格は米豪産の二~四倍にもなる。畜産クラスターや資材価格引き下げでどうしてこの差が埋められようか」(農業成長産業化という妄想―「安倍農政」が「ヨーロッパ型」農業から学ぶべきこと(北林寿信)  世界 20169月号)

関連情報:成長ホルモン肉しか食べられなくなる!それで牛肉消費が減れば結構なことだが 時評日日 19.1.27

  追記(16日)

 EUの成長促進剤(ホルモン)禁止については農業情報研究所の次の記事を参照されたい。

  EU:科学委員会、ホルモン牛肉の危険性を再確認 02.4.24

  欧州委、ホルモン牛肉禁輸への米加制裁解除を求め、WTO提訴,04.11.9

  英国土壌協会 牛肉残留成長ホルモンの新たなリスクで警告 検査強化も要求,06.7.4