農業情報研究所グローバリゼーションWTO・多角的関係または二国間関係・地域協力ニュース:2013年7月19日

ラミーWTO事務局長 環大西洋・環太平洋(TPP)貿易交渉を酷評 新たな貿易障壁を生み出す恐れ

 退任を数週間後に控えたパスカル・ラミーWTO(世界貿易機関)事務局長がフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで、近年流行りの米国、EU、日本主導の二国間・地域貿易投資協定交渉―EU・米国の環大西洋協定と環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉―を忌憚なく批判した。

 Lamy questions US-led trade talks,FT.com,13.7.18
 WTO chief takes swipe at regional and bilateral talks,Financial Times,13.7.19,p.2

  言い分は決して新しいものではない。むしろ言い古されてきたことだ。それでも、言うことを聞かない中国やインドのような大国を外した国々と手っ取り早く協定を結ぶことで専ら自国の「国益」を追求するダーウィン主義的思考(ダーウィン主義のTPP 何が「力による支配ではなく」、「自由と民主主義」だ,13.3.19)に慣れた米・欧・日の指導者には耳が痛い話だろう。これら指導者は、ラミーの問いにどう答えるのだろうか。あるいは答えられるのだろうか。労をいとわず紹介しておこう。

 第一に、これら二国間・地域協定の擁護者は、米国とそのパートナーはドーハ・ラウンドの停滞で長期の麻痺状態にある世界貿易交渉に新たなダイナミズムを注入するのだと言う。これら協定はその他の地域協定と相俟ち、グローバ協定のビルディング・ブロックになり得ると論じている。

 彼らは、ジュネーブ(WTO)での交渉は余りにもスローモーで、インドや中国のような大国が拒否権を有効に行使しているとも指摘する。例えば、広汎なエレクトロニクス製品の関税を削減する今週のジュネーブでの交渉は、中国が例外品目の長いリストを提出したために停止した。

 しかし、ワシントン、ブリュッセル、東京の交渉官は、もし環大西洋協定、環太平洋協定が成ったとしても、それらをどう調和させるのか、ちゃんとした考えを持っているのかどうか疑わしい。

 経験の示すところでは、二国間・地域協定は多角的協定の躓きの石というより踏み石になり得るが、食品安全とか車の排気ルールのような非関税障壁の重要性が増しているとき、こういう協定を綴り合わせることは、将来、ますます困難になるだろう。

 二国間・地域レベルの規制基準に合意することは地域統合の深化につながるかもしれないが、グローバルなレベルでの”規制の整合”を達成する過程を複雑にし、新たな貿易障壁を生み出す可能性がある。

 「今のところ、この問題には答えれらていない。誰が整合のメーカーになるのか知らない。ブリュッセルでこの問題を提起すると、我々は心配していない、整合させると答えが返ってくる。ワシントンに行って同じ質問をすると、心配ない、整合させると言う。東京に行って誰が整合させるのかと聞くと、日本人は、そんなことは知らないと言う」。

 こういう地域協定は、農業補助金のような困難な問題を回避する”有志連合”の集まりを意図しているようにも見える。

 「これらの二国間、多数国間、ミニまたはメガな交渉のどれひつとして、貿易歪曲的農業補助金を削減する協定につながったものはない。米国とEUの交渉についていっぱい聞かされたが、これら二人の巨人が自分の貿易歪曲的補助金を議題に乗せるとは誰も言わない。これはEUと日本、スイスと日本でも同様だろう」。

 ラミーはドーハ・ラウンドをなお防衛する。ビッグバンは当分ないだろう。しかし、貿易円滑化(税関手続きの改善等)に関する今年12月のバリ閣僚会合で有意義な合意に達するチャンスがある。

 ドーハは死んだと宣言する”小賢しい人々”は、それが開発を核心に置くユニークな貿易交渉であることを忘れている。もしアフリカのWTO加盟国に行ってWTOは死んだなどと言えば、たちまち部屋から追い出されるだろう。

 税関手続きは世界貿易に10%のコストを課しているが、世界の関税コストは平均で5%ほどにすぎない。貿易円滑化はビジネスコストを大きく削減するだろう。貿易専門家や主要交渉官は、バリ閣僚会合がドーハ・ラウンドの生死を分けると見ている。


 それでも日本は、何が何でもTPP、対EUEPAだ。