農業情報研究所グローバリゼーションWTO・多角的関係ニュース:2013年9月17日

WTOドーハラウンドになお望み?食料補助をめぐる米・印の争いに打開の道

 今年12月、インドネアシア・バリ島で、ドーハラウンドの生死を分けると言われる第19回WTO閣僚会議が開かれる。この会議の目標は、とりわけ途上国の食料安全保障や国境における官僚主義の除去(貿易円滑化)に関する”小型ドーハ協定”への合意である。これによってWTO、多角的貿易体制への信頼を取り戻し、ドーハラウンド再生に望みをつなごうというわけである。ただ、この合意に向けた交渉自体が難航、目標達成はとても無理と見られてきた。

 ところが、フィナンシャル・タイムズ紙が16日付で報じるところによると、合意を阻む重要要因の一つであった食料安全保障をめぐるインドと米国の対立に打開のメドがついたという。ロベルト・アゼベドWTO新事務局長が先週始めた一連のジュネーブ大使会合が、少なくとも新事務局長の最初の成功を生み出したということだ。

 同紙によると、政府が大量の食料を買い上げ、貧しい人々に配るプログラムをいかに管理するかについて米・印が角を突き合わせるのではなく、”平和条項”を交渉する方向で一致した。一定期間を設け、この間はインドやその他の国のプログラムを批判する国がこれを協定違反としてWTOに訴えないことで合意するということである。

 インドや途上国G33グループのその仲間は、政府の食料購入と貧しい人々への配布を許すWTO協定の確保を今年の優先事項の一つとしてきた。貧しい農民に支払うことができる価格の設定や余剰穀物を政府がどう扱うかついて、途上国にはWTOルールで許されるよりも柔軟な定めが必要だと論じる。

 これは、今年、食料補助金を220億ドルにまで増やし、食料補助を受ける国民を12億の国民の3分の2にまで増やす新食料法の制定を目指しているインドや、農民から大量の米を保証価格で買い上げているタイでは、特に重要な問題だ。

 これに対し、米国その他の先進国は、政府の食料安全保障プログラムは、政府在庫の余剰分が輸出されるか、一般市場に放出されるとき、商品市場を歪曲する恐れがあると論じてきた。これらプログラムで価格がいかに透明に設定されるかについても疑問を呈してきた。

 ”平和条項”の基本条件、適用期間、監視方法などはこれから交渉せねばならない。ただし、交渉参加者は、レトリックの変化は新事務局長就任以来のジュネーブ(WTO本部)の新しいトーンのシグナルだいう。一参加者は、「議論のテンポが違っている、議論の核心が変わっている」と言っているそうである。 

 India and US back off food security battle,FT,13.9.16
 india and US retreat from battle over food subsidies,Financial Times,13.9.16,p.6

 もしもEU—米国環大西洋協定や環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が定める貿易・投資ルールが「世界標準」となれば、途上国・弱小国に未来ばない。人類と自然の未来もない。 すべてが多国籍企業=金儲けロボット怪獣に踏みつぶされる。しかし、パスカル・ラミー前事務局長も言うように、ドーハラウンドはまだ死んでいないというならば(ラミーWTO事務局長 環大西洋・環太平洋(TPP)貿易交渉を酷評 新たな貿易障壁を生み出す恐れ)、かすかな望みは残されているということか 。