農業情報研究所グローバリゼーションWTO・多角的関係ニュース:2015年12月23日

WTOドーハラウンド安楽死にも沈黙の日本マスコミ 弱肉強食TPPの尻馬に乗り何事もなし

   WTOドーハラウンドが最終的に死を迎えた。ドーハラウンドは既に死んだも同然であったとはいえ、TPPには多言を弄する日本のマスコミもこれにについてはほとんど完全黙秘だ。唯一、日本農業新聞が

 「WTO停滞の一方で、世界貿易の4割近くを占める、メガFTAであるTPP大筋合意の相対関係をどう見たらいいのか。・・・

 TPPは他のアジア、中南米に広がる見通しだ。WTOに代わるものと期待する指摘が一部にある。だがこれは間違いだ。関税撤廃を大原則にし、統一ルールといっても米国の主張を色濃く反映している。米、乳製品などの国別TPP輸入枠などは自由貿易とは相いれない管理貿易との指摘も強い。しかも国有企業改革などの項目もある。これでは国家主導資本主義を進める途上国や中国などはとてもTPPに入れない」

 という22日付けの論説を掲げたのみである。

 岐路に立つWTO メガFTAは代替困難 日本農業新聞 15.12.22

 あとは22日付け日本経済新聞に掲げられた21-22日付けのFT.com、フィナンシャル・タイムズの社説の翻訳があるのみである。

 同紙も、「ドーハは08年の閣僚会合が頓挫した時に実質的に死んだ。その後は生命維持装置で7年生き延びたが、米国をはじめとする各国政府は二国間または地域間の交渉を推し進めた。中でも最もよく知られているのは環太平洋経済連携協定(TPP)だが、こうした合意は多角的交渉の代用としては弱いもので、とりわけ最も力の強い署名国によって書かれたしばしば一方的な合意内容になるが故に、なおさらだ」と指摘する。

 [FT]ついに安楽死したドーハラウンド(社説) 日本経済新聞 15.12.22

 Doha round finally dies a merciful death(Editorial),FT.com,15.12.21The Doha round finally dies a merciful death,Financial Times,15.12.22,p.8

 ドーハラウンドの死を前にしての日本マスコミの沈黙は、おそらく、WTOが機能不全に陥っても、まさにTPPのようなメガFTAがその代役を果たし得るという観念があるからだろう。彼らは、二国間・地域協定が域外国に対して差別的であるばかりか、弱肉強食的であるという意味で弱小域内国にも差別的である(注)ことを知らない。それは決してWTO=多角的貿易協定に代わり得るものではない、こんな国際経済学のイロハも知らないジャーナリストが今の日本マスコミ界を支配しているということだ。

 (注)ダーウィン主義のTPP 何が「力による支配ではなく」、「自由と民主主義」だ 農業情報研究所 13.3.19

 そもそもドーハラウンド「安楽死」の一因は、「自国の農業ロビー団体との闘いに全体的に及び腰だ」のアメリカ政府が「国内の補助金削減の見返りに、不可能なほど大規模な海外市場への参入を要求」したことにある(前掲FT紙社説)。

 TPPとは、WTOでそういう要求が通らないことに業を煮やし・また二国間・地域協定交渉で一方的な貿易自由化・規制撤廃要求をことごとく蹴とばされて「世界の孤児」となってしまったアメリカが、これなら言うことを聞かせられようとシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4ヵ国ですでに形成されていた環太平洋パートナーシップ協定(TPP、2005年5月28日発効)の乗っ取りに出たものである。日本はそうしたアメリカの尻馬に乗り、時にその尻を叩きながら、TPP大筋合意に向けて突っ走ったのである。

 ドーハラウンドの死に際しそんな戯画も描けないマスコミ、それも日米両政府の尻馬に乗っているのだろうか。

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