ASEAN共同体実現のための枠組―ConcordU

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.8

 7日、バリ島で、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳が2020年までにASEAN共同体を実現する新たな里程標を設置した。バリ・コンコルドUと呼ばれるこの里程標は、ASEAN共同体を実現するための三つの柱としてのASEAN安全保障共同体(ASC)、ASEAN経済共同体(AEC)、ASEAN社会文化共同体(ASCC)の設立に関するフレームワークを定めるものである。計画達成を2015年に前倒しするというシンガポールとタイの主張は採択されず、引き続き論議されることとなった。

 このような地域統合の強化は、外国からの投資を中国に飲み込まれるとともに、中国製品の氾濫で地域の経済が沈没することへの恐怖感が駆り立てたものだ。地域に政治的安定をもたらし、モノ・サービス・資本が域内国境を超えて自由に移動できるEU型の共同市場(単一市場)を形成することで、中国に向かう外国投資を再び取り戻そうとするのが最大の眼目であろう。この共同市場は外にも開かれたもので、事実、中国とは2010年までの自由貿易圏(FTA)設立が目指され、日本・韓国とのFTA設立も追求している。カンクンWTO閣僚会合失敗後の地域統合への「正気の沙汰か」と言いたくなるような熱気の高まりも、この動きを助長した。

 だが、加盟国間の巨大な経済格差、政治体制や民族・宗教の違いを考えれば、この構想は、ついぞ一度も筋肉を付けたことのない骸骨、珍奇な歴史的遺産として博物館に展示されることになるかもしれない。仮に幾ばくかの筋肉がついたとしても、中国の餌食となることへの恐怖を和らげる鎮静剤程度の効能しかない恐れがある。北米自由貿易協定(NAFTA)締結にもかかわらず沈没しつつあるメキシコ(メキシコ:6年ぶりの高失業率、中国企業には低いNAFTAの壁,03.9.22メキシコ:自由貿易は貧困軽減に失敗,03.3.23)や、国連貿易開発会議(UNCTAD)が警告を発した90年代ラテン・アメリカの経済・貿易自由化(国連貿易開発会議、2003年貿易開発報告に伴なう報道発表,03.10.6)の後追いとなる可能性が高い。

 こうした問題や、各国・各層の反応はおいおい報告するとして、ともあれアジア初のEU型地域統合を目指す野心的試みは、骸骨だけでも保存しておく価値があるだろう。取り敢えず、採択された枠組みのポイントを紹介しておく。

 ASC設立

 ・ASCが、地域内の国々が相互に、また世界と、公正で・民主的で・調和的な環境のなかで平和に生きることを保証するために、ASEANの政治・安全保障協力を生み出すように取り組む。

 ・ASCのメンバーは、専ら平和的プロセスで域内地域紛争を処理し、その安全保障は基本的には他のメンバーの安全保障と関連しており、また地理的位置、共通のビジョンと目標に拘束されていると見なす。

 ・ASCは、個別の外交政策と防衛協定を追求する加盟国の主権を認め、また政治的・経済的・社会的現実の間の強い相互関連を考慮して、防衛協定・軍事同盟・共同外交政策よりも、ASEAN2020年ビジョンと調和する広範な政治的・経済的・社会的側面をもつ包括的安全保障の原則に賛同する。

 ・ASEANは、地域的連帯と協調の促進を継続する。加盟国は内政干渉を受けることなく、その権利を行使する。

 ・ASCは、アジア太平洋地域の平和と安全保障の促進に一層寄与し、すべての加盟国に適したペースで前進するASEANの決定を反映する。

 ・ASCは、ASEANの友好国と対話のパートナーに関して開放的で、外向的な姿勢をもって、地域における平和と安定を促進する。

 ・ASCは、テロ、麻薬、人身売買、その他の国をまたぐ犯罪に対抗する国家・地域の能力を強化するために、ASEAN内部の既存制度とメカニズムをフルに利用する。また、東南アジア地域が、引き続きすべての大量破壊兵器をもたないように努める。

 AEC設立

 ・AECは、ASEAN2020年ビジョンに大筋が示された経済統合の最終目標を実現するもので、2020年までに、財・サービス・投資の移動が自由な安定し・繁栄し・高度な競争力をもつASEAN経済地域を創設し、経済発展の不均衡、貧困と社会経済格差の縮小をめざす。

 ・AECは、ASEANを単一市場・生産基地とし、相互補完的ビジネス機会で特徴づけられる多様性をもすダイナミックで強力な世界の供給チェーンの構成部分とする。ASEANの戦略は、ASEANの統合と経済競争力の強化からなる。

 ・AECに向かうなかで、ASEANは新たなメカニズムと、ASEAN自由貿易地域(AFTA)、ASEANサービス枠組協定(AFAS)、ASEAN投資地域(AIA)を含む既存の経済イニシアティブを強化する措置を制定する。

 ・完全に統合された経済共同体の実現のためには、自由化と協力の両方の実施が必要である。

 ・他の分野での協力と統合の活動が必要である。とくに、人的資源開発と能力建設、教育資格の承認、マクロ経済・金融政策に関する協議の緊密化、貿易金融措置、インフラストラクチャーと通信の強化、電子商取引の開発、地域調達を促進するための産業統合、民間部門参加の強化などの分野での協力と統合。

 ASCC設立

 ・基礎・高等教育、職業訓練、科学技術開発、雇用創出、社会的保護への一層の投資により、労働者が経済統合に備え、その恩恵に浴するように保証する。人的資源の開発と強化が雇用創出のカギを握り、貧困と社会経済格差を削減、均等な経済成長を保証する。

 ・エイズ、SARSなどの感染症の予防と抑制を含む公衆衛生分野での協力をさらに強化し、医薬品の手頃な値段での入手を増やすための共同地域行動を支援する。共同体の安全保障は貧困と病気が減り、人々が適切なヘルス・ケアを保証されるときに強化される。

 ・各国が発展の潜在力を完全に実現し、ASEAN共同精神を強めることを可能にするために、人口増加、失業、環境悪化、国境を超えた汚染、災害対策に関連した問題にへの取り組みでの協力を強化する。

 農業情報研究所(WAPIC)

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