傷だらけのFTA、日本・韓国・米国―WTOがダメならFTAもダメ

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.18

 日本とメキシコの自由貿易協定(FTA)交渉は、日本側が「予想外」と驚いたというメキシコの強硬な農産物市場開放要求で今後の進展が危ぶまれている。メキシコ政府は最近、日本とのFTAと米州自由貿易協定(FTAA)の交渉を除き、これ以上のFTA締結は打ち止めとする意向を表明している(1)。フォックス大統領は15日、マイアミでのFTAAの大詰めの交渉を控え、ブラジル・アルゼンチン・パラグアイ・ウルグアイで構成する南米共同市場(メルコスル)と交渉に合意、早い時期に協定は可能と発言するとともに、ウルグアイとのFTAに調印した(2)。このような南南協定は別として、大した実質的利益も望めないFTA交渉には意欲を減退させている。物欲しげな姿勢をあからさまにして交渉に臨む日本は足元を見透かされており、容易な妥協的解決には応じないだろう。

 これ以上のFTAは望まないというメキシコ政府の発表は、韓国の政府や財界にも大ショックだ。韓国にとっての重要な輸出市場になりつつあるラテンアメリカとのFTA締結は決定的に重要な課題と見られている。メキシコとはFTAの共同研究に合意したばかりだ。障害は外からやってきただけではない。昨年は、農産物をめぐり難航の末に、韓国としては初めてのFTAとなるチリとの協定に合意したが(3)、いままた農民団体が議会での承認を阻止しようと激しく抵抗している。政府は12月9日までの通常国会で承認を勝ち取る構えだが、これを阻止しようと5万の農民が国会近く集結している(4)。この国会通過が遅れたり、失敗するようなことになれば、次に予定されているシンガポール、日本との交渉にも影響が及ぶのは避けれられない。政府や財界指導者の焦燥感はつのるばかりだ。

 米国のFTTA戦略は完全に躓きそうだ。FTAAに懐疑的なブラジルの抵抗で、マイアミ会議を前に米国が強く固執してきた「包括的協定」の見込みは完全に消えた。米国は農産物市場開放・農業補助金削減・アンチダンピングの問題をWTO交渉に委ねることをブラジルに飲ませたが、代わりにブラジルが強硬に反対するサービス・政府調達・知的所有権などを含む「多角的・包括的協定」を放棄せざるを得ない状況となった。米国とブラジルの妥協案では、すべてのFTAA参加国を拘束する多角的・包括的協定ではなく、各国のグループが望む協定を選択することができる。ブラジルはサービス・政府調達・知的所有権協定をオプトアウトするだろう。だがこれで決まりではない。カナダ・チリ(そしてメキシコ)はなお包括的協定に固執、つまみ食いする国には協定が与える市場アクセスの便益を全面的には与えないと主張している。ブラジルはこれに猛反発しており、会議の行方は未だに定まらない。そのうえに、マイアミには、FTAAに反対する2万を超える環境活動家や労組員が集結している。マイアミ会議は、カンクンWTO閣僚会合と同様、交渉継続を宣言するだけに終わるという観測さえある。予定の2005年発足など、とても実現しそうにない(5)。

 WTO交渉の停滞から、米国、日本、韓国などは、FTA交渉のガムシャラな推進に走った。だが、今や、WTOがダメならFTAという時代ではない。WTOでダメなものはFTAでもダメという時代だ。カンクンが残した先進国・途上国の激突の傷跡は簡単には消えない。ブラジル(メルコスル)、インド、南アフリカ、中国など、G20+グループを主導した国々だけが、FTAを含む協力関係を着々と強めている。新たな世界貿易体制の構築は、米国・EU・日本などの思いどおりには進まなくなった。それはカンクンが示しただけでなく、目下のFTA交渉が示している。

 (1)メキシコ政府、新たな自由貿易協定(FTA)は結ばない,03.11.15
 (2)
Fox Says Mexico Set to Begin Talks on Trade Pact With Mercosur,Bloomberg.com,11.15
 (3)韓国・チリ、自由貿易協定に合意,02.10.25
 (4)
Farmers to hold Anti-FTA Rallies,The Korea Times,11.17Foreign Cynicism Mars FTA Taliks,The Korea Times,11.1
 (5)Miami Trade Talks Hit their First Anag,The Washington Post,11.18;Brazil sets out on scope of trade deal,FT.com-World,11.17,etc.

農業情報研究所(WAPIC)

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