農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2013年9月2日

TPP 米政府は議会差し金のタバコ規制提案を改めよ 健康を脅かされる公衆の側に立て N.Y.タイムズ社説

 先日、環太平洋パートナーシップ協定(TPPA)交渉のブルネイ会合で、米国が突如、議会・業界の差し金でタバコ規制に関する新た提案を行ったと伝えた。未だに通商交渉権限を与えれらていない (それほど議会の信任が薄い)米国政府は議会(とこれを裏から律する業界)の顔色をうかがいながら交渉を進めるしかなく、ときに自身の持論さえ簡単に曲げる。交渉に反映されるべき、たとえば食品衛生や公衆衛生に関する自身の確たる立場さえ、簡単に捨てる。 どんな約束も、いつ反故にされるか分からない。そんな例の一つとしてこれを取り上げ、これは交渉の本質にかかわる重大な問題だと訴えたつもりである。

 TPP交渉 タバコ規制で米議会・業界が巻き返し 各国保健規制を骨抜きにする米政府新提案,13.8.23

 しかし、日本マスコミは全く無関心なようだ。毎日、TPPについて山ほど伝え、論じながら、この問題には全く触れることがない。そんな中、フィナンシャル・タイムズに続き、TPPのことなどほとんど取り上げたことのないニューヨーク・タイムズも、その社説でこの問題をを取り上げた。 議会差し金の新提案は反故にし、本来の自身の態度を貫けと言う。日本のマスコミ、オピニオン・リーダーも、その見解への賛否は別としても、これを取り上げるセンスの確かさには学ぶべきである。(もっとも、センスは学んで身につくものではなさそうだが)

 社説の大要は次のとおりである。

 健康保護のための各国のタバコ規制を多国籍タバコ企業等の法的挑戦(貿易自由化協定違反としての告発)から護る比較的強力な提案を支持してきた米国が、8月のTPP交渉参加国ブルネイ会合で、突如、はるかに弱腰の提案を行った。

 提案は、公衆衛生のための自由化の例外を許す他の国際協定に言及した上で、協定違反の提訴があった場合にはTPP参加国の保健当局者に相互の協議を要請するというものだ。これでは企業の法的挑戦を防げないだろう。これに対し、マレーシアは、販売、広告、さまざまなたばこ製品の禁止などの自身のルールを設ける国の能力を保護するタバコ規制措置に関する完全な協定を提案した。

 タバコは、公衆衛生の見地から、農産物貿易増加を目指すいかなるルールからも除外されねばならない。独自な危険性を持つ製品であるタバコの貿易障壁を減らすことは、タバコ消費を増加させ、既に膨大な数になっている喫煙死をさらに増やすことにつながる。タバコは20世紀、1億人を殺したと推定されており、強力な対策が取られなければ、今世紀には10億人を殺すと予測されている。

 米国は、TPP交渉再開にあたり、態度を改める必要がある。致命的で高度の中毒性があることで知られる製品のメーカーではなく、公衆と公衆衛生を心配する人々の側に立つべきである。

 Editorial: The Hazard of Free-Trade Tobacco,The New York Times,13.9.1