農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2013年9月26日

米議会上院過半数議員 TPPで”為替操作”に取り組めと政府に要請 アベノミクス円安許さず

 フィナンシャル・タイムズ紙の報道によると、米国議会上院の半数を超える超党派議員団が、オバマ大統領は環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉において”為替操作(currency manipulation)”に取り組めと要求した。上院議員100人のうち民主・共和両党議員を含む60人が24日、マイク・フロマン米国通商代表およびジャック・ルー米国財務長官宛てに、TPPや将来の貿易協定において通貨措置と戦うように求める書簡を送ったという。

 書簡は日本を名指ししてはいないが、安倍晋三首相の新経済政策の下での円の価値低下(円安)誘導に対する米国議会と製造業者、特に自動車メーカーの怒りの高まりを反映するものだ。ミシガン選出民主党議員・Debbie Stabenowとサウスカロライナ選出共和党議員・Lindsey Grahamが率いる議員団の書簡には、「通貨操作は自由貿易協定の利益を無にするか、大きく減らし、アメリカの企業や労働者に破滅的影響を及ぼす恐れがある」と書く。

 オバマ政府は今までのところ、6月に下院の超党派多数派議員が同様な書簡を送ったのちにも、TPPで通貨措置を推し進めるのに抵抗してきた。しかし、政府が議会の圧力に屈するようなことになれば、日本を大混乱に陥れ、交渉が頓挫しかねない。

 Currency manipulation should be part of trade talks, Senators say,FT.com,13.9.24
 US Senate throws up obstacle to trade deal,Financial Times,13.9.25,p.1

 さりとて、オバマ政府が議会の要求を蹴とばせば、未だに与えられていない貿易促進権限(TPA)が得られず、交渉自体が台無しになってしまう恐れがある(米国ファスト・トラック法制定が難航 米政府に通商交渉権限なし 幽霊相手にTPP交渉か,13.8.10)。オバマ大統領、議会をどう説得するのだろう。10月から始まる新年度の予算さえ未だに得られず、政府機関閉鎖の危機さえ迫っているのに議会を説得できない大統領に、そんな力があるのかとも疑われる。

 ところで、日本、そして多くのアジアのマスコミ、TPP推進派も反対派も、TPP交渉の進捗について実に多くのことを伝えてくれるが、TPP交渉の行方を決定的に左右する米国議会の動きについてはほとんど何も伝えない。 だから、交渉の先行きはまったく不透明なままだ。彼らがTPPを見つめる目は節穴かと言いたくなるような現状だ。過去のすべての貿易交渉において交渉官に煮え湯を飲ませてきた「イッパチサン」(通商交渉の権限を政府ではなく、議会のみ与えた米国憲法第1条第8節第3)の威力を知る者はみな年老い、あるいは亡くなり、その脅威を伝える語り部もいなくなってしまった ということだろうか。