農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2013年8月1日

米国ファスト・トラック法制定が難航 米政府に通商交渉権限なし 幽霊相手にTPP交渉か

 米国ファスト・トラック法(正式には”貿易促進権限=TPA法)の制定作業が難航、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定や(米国・EU間)環大西洋貿易投資協定(TTIP)の締結に迅速に漕ぎ着けようとするオバマ政府の期待が裏切られつつある。

 TPAは憲法上は議会がもつ通商交渉権限を政府に与え、交渉結果は遅滞も修正もなく単純多数決で議会が承認する(か否認する)というものだ。1970年代に創設され、失効・再制定を繰り返してきた。2002年に制定された法が失効した2007年を最後に、TPA不在の状態が今も続いている。

 TPPやTTIPの交渉をにらみ、上院財務委員会は当初、6月に新たなTPAの制定にとりかかる予定だった。しかし、フィナンシャル・タイムズ紙が伝えるところによると、委員会はコンセンサスを得るのになお苦闘しており、交渉は秋にずれ込みそうだ。下院歳入委員会のメンバーも交渉に加わっているという。

 遅れの原因の一つは、交渉の目標を設定する立法の込み入った性質だ。最後のTPAができた2002年以来の世界経済は大きく変化、国有企業、知的財産権、国境を越えたデータのフローをどう扱うべきかなど、安全保障にもかかわる新たな問題が加わった。その解決には予想以上の時間がかかる。

 これらの問題はいずれ解決を見るかもしれない。しかし、激しい争いが必至の別の問題もある。民主党は労働・環境基準の強化を主張するが、共和党はこれに抵抗している。民主党リベラル派は、TPP交渉で政府が日本とその円安に強硬な姿勢を取るように強要する通貨措置をTPAに含めることを望んでいる。さらに、上院のボーカス財務委員長は、TPAといっしょに「貿易調整支援」と呼ばれる労働者訓練(外国からの輸入増加により損害を被る労働者の支援)プログラムも通そうとしている。これらの問題で一致を見るのは容易なことっではない。

 一部共和党議員は、TPAの欠如のために交渉相手の信頼が失われ、米国の貿易交渉そのものが妨げられると論じているそうである。

 US fast-track trade drive loses impetus,FT.com,13.8.8

 当たり前だ。交渉が妥結しても、米国議会が批准する保証がないというだけではない。米国以外のTPP交渉参加国、EUは交渉権限を持たない相手、交渉相手としては実体のない相手、いわば幽霊に等しいものと交渉しているわけだ。もうやめた、少なくともTPAが成立するまでは中断する、何故そう言わないのだろうか。

 ファスト・トラック法関連情報

 自由化に逆行する米国ファスト・トラック法と新農業法、新たな貿易交渉は失敗の恐れ,01.12.18

 米国:ファスト・トラック法、上院を通過、大統領署名へ,02.8.3