農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2015年5月13日

米議会上院 ファスト・トラック法審議入りさえできず 反対派与党議員罵倒でオバマ自身が墓穴

 米国議会上院が12日、貿易促進権限(TPA)法案、TPP(環太平洋パートナーシップ)など貿易協定の速やかな議会承認を可能にする通称ファストトラック法案の審議入りに必要な動議の採決に失敗した。その採決のためには最低60票の賛成票が必要だが、投票では52票の賛成票しかなかった。TPPに反対し、あるいはその効用に疑念を抱くオバマ与党・民主党議員の抵抗のためだ。オバマ大統領の懸命な与党議員説得も、ついに功を奏することはなかった。

 Senate Democrats vote to block Obama on trade,The Washington Post,15.5.12

 Senate Democrats Foil Obama on Asia Trade Deal,The New York Times,15.5.12

 Obama Faces Big Fast-Track Trade Bill Test Tuesday,Wall Street Journal,15.5.12

 これでは、TPA採択の可能性が下院に比べて比較的高いとされていた上院でも、TPA法案の審議入り自体が危ぶまれる。ここ何年も日本を騒がし続けてきたTPPの運命も、もはや風前の灯、オバマ大統領自身の命運も尽きたと言えるかもしれない。

 どうしてこんなことになたのか。安倍首相はじめ、TPP推進論者はショックを受けているかもしれない。しかし、これは最近のTPPをめぐる米国内の論調(TPPをめぐる最近の米国内論調)を追いか けていれば、十分予想できたことだ。

 一口で言えば、オバマ大統領が自ら墓穴を掘ったということだ。TPP反対派の議員は、何よりも自由貿易協定の米国内雇用・賃金への悪影響を恐れてきた。それは、北米貿易協定(NAFTA)や米韓自由貿易協定の実際の経験に基づく恐れであった。大統領はそれに対し、自由貿易は貿易を増やし・経済成長を促すという一般的自由貿易論を対置するしかなかった。それでは説得力がない。TPPは経済的利益のみならず、政治的利益―安全保障への寄与も大きいとも強調した。しかし、それは日本や米国と中国の関係を一層緊張させるという常識的な見方に対抗すべくもない。

 与党内の支持が広がらないことに焦ったオバマ氏は、党内の論敵の論拠を”いかなる意味もなさない”とか、”純粋な空論”とか、”でっちあげ”とか、非現実的とか言いつのるに至る。それで反対派議員を説得できるはずがない。むしろ離反を促すだけだ。オバマ大統領、もはや説得をあきらめていたのかもしれない。

 あなたは周りにいる人と友達になろうとして

 君は感情的で、非論理的で、時代遅れで、全く頭が悪いんじゃないの?・・・などと言いつのるだろうか。

 それでは絶対にと友達になれない。だが、それこそオバマ大統領が民主党の同僚を扱うやり方であり、彼が敗者となる恐れがある理由である。

 Obama’s trade deal: Why he’s in danger of losing,The Washington Post,15.5.12

 どうやら生きているうちにオバマと安倍の泣きっ面を見られそうで、めでたしめでたし!(安倍首相は日米主導でTPPと張り切るも、ファスト・トラック法案通過は綱渡 15.4.30)

  関連ニュース

 米上院、貿易権限法案の審議入り見送り TPP交渉に遅れも 日本経済新聞 15.5.13

 米の貿易権限法案審議見送りに懸念 首席交渉官 日本経済新聞 15.5.13

 TPP12カ国交渉「精力的に進める」 首席交渉官 日本経済新聞 15.5.13