農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2015年5月22日

EU 米国との自由貿易協定の障害になると、環境ホルモン農薬禁止計画を棚上げ

 ガーディアン紙(イギリス)が伝えるところによると、米国は米国-EU貿易投資自由化協定(TTIP)交渉を成功せせるために、EUが計画する内分泌攪乱化学物質―癌や男性不妊に関連する環境ホルモン物質―の規制を棚上げするように圧力をかけている。EUの規制基準草案によると、内分泌攪乱化学物質(EDCs)を含む31の農薬が禁止されることになる。ところが、Pesticides Action Network (PAN) Europe が入手した文書により、米国の圧力でこの計画が投げ棄てられたことが明らかになったという。

 EU dropped pesticide laws due to US pressure over TTIP, documents reveal,The Guardian,15.5.22

 2013年7月1日、米国の対EU使節団と米国商工会議所のハイレベル代表団がEUの貿易担当官を訪ね、EUが新たな影響研究に賛同し、計画されている基準を取り下げるべきだと主張した。

 会議録は、欧州委員会担当官が、”TTIPの成功は望むけれども、EUの基準を引き下げるように見られたくない”と弁じたことを示している。 商工会議所代表はこれに答え、禁止物質のカテゴリー、リストを創るのは無益と憤慨した。米国通商代表はリスクベースの規制を主張、影響アセスメントの必要性を強調した。

 その日遅く、欧州委員会のキャサリン・デイ事務総長はカール・フリードリッヒ・ファルケンベルク環境総局長に、基準案を取り下げるように諭す書簡を送った。この書簡には、「すべての提案をカバーする共同単一影響評価をすることを考えるように提案する。内分泌攪乱化学物質を同定するための基準に関する欧州委員会の勧告を準備する必要はないと考える」と書かれている。

 その結果、2014年に計画されていた規制は少なくとも2016年まで延期された。IQ(知能指数)損失、肥満、男の子の停留精巣(陰嚢に睾丸=精巣がない状態)などの攪乱物質関連疾患のヨーロッパにおける保健コストが年1500億ユーロ(約20兆円)と推定されているにもかかわらず、という。

 米国商工会議所や米国通商代表は、許される攪乱物質暴露レベルの基準を緩めるための影響研究や、規制のヨーロッパ市場への影響の研究を、会合の1ヵ月前の書簡で要求していた。この書簡を受け取ってまもなく、欧州委員会保健総局事務局長はニオ・ボルジ保健担当委員宛ての内部文書で、EUの攪乱物質政策は経済・農業・貿易に重大な影響を及ぼす」と警告している。EUの計画撤回1週間前に書き換えられたこの書簡は、「米国、カナダ、ブラジルは既に、「貿易に重大な影響を与える基準への懸念の声を上げている」と続ける。

 計画取り下げ前数週間、デュポン、バイエル、BASFなどのヨーロッパ大企業からの集中攻撃もあった。攪乱物質について暴露容量が高ければ対高いほど影響も大きいという直線的な安全閾値モデルは適用できないという科学研究が増え続けている。人間の内分泌システムはホルモンにより規制されており、ホルモン受容体は低容量に敏感だ(Hans Muilerman, PAN Europe’s chemicals coordinator)。それにもかかわらず、これらの圧力活動の共通のテーマは、安全な暴露レベルの設定であるという。

 ところで、TPP交渉では何が?日本(やTPP交渉参加国)にはこんな計画そのものがない。問題になりようがないということか。

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