カナダ—EU経済貿易協定 ワロニーの抵抗で調印できず 地域主権を脅かす包括協定に幕

農業情報研究所グローバリゼーション二国間 関係・地域協力ニュース2016年10月27日

 カナダ-EU包括的経済貿易協定(CETA)調印の先送りが確定的になった。ブッシェルでの27日の調印を目指し、反対するベルギー・ワロニー地域との調整を前日(26日)まで続けたが、ついに時間切れとなってしまった。同日、調印のためにブッシェルに向かうはずであったカナダ・トルドー首相も渡航を断念する事態となった。

 それでも首相は、「来るべき日にこの歴史的協定が日の目を見ると確信している」と議会で語った。ベルギー政府との調整に前進が見られるからだ。

 それはそうかもしれない。しかし、その時には、協定は「歴史的協定」とは似てもつかないものに変じているだろう。ワロニー議会にCETA反対を取り下げさせるためには、ISDS条項(投資家と国家の紛争解決のメカニズムを定める条項)始め、ワロニー議会が問題視する条項を協定から削るか、修正する必要があるからだ。カナダの国際貿易問題弁護士のLawrence Herman は、「協定を救うためにCETAから投資家-国家紛争処理条項を取り除くようにカナダ政府に要請した」という。

 Trudeau ‘confident’ CETA crisis is nearly over,Globe and Mail,16.10.27

 これは、カナダーEU協定だけの問題ではない。EUが米国、日本等と結ぼうとしているEU-米国投資貿易協定(TTIP)や日-EU経済連携連携協定にも影響する。これらは物品の関税を撤廃するだけの自由貿易協定ではない。農業、サービス貿易、労働・環境・消費基準、投資等にもいかかわり、国内法の改訂を伴うこれら”混合協定”は、 EUでは加盟国・地域38議会の承認を受けねばならない(リスボン条約)。だからこそ、人口500万ほどの一地域が巨大な地域協定を破産させるほどの力を持つのである。

 ワロニーのCETA拒絶は、欧州諸地域が新たな貿易投資協定を拒絶する前例となるだろう。前にも紹介したように、ニューヨーク・タイムズ紙はワロニーの例を引き合いに、「貿易自由化は経済成長を加速したが、戦利品の大部分は大企業に独占された。グローバリゼーションがもたらす経済的不平等への怒りは、今や近代史を変えるほどの猛烈な逆流を生み出した。第二次大戦の終わりと共に始まったグローバリゼーションの局面は本質的に過ぎ去った」とまで言っている(ルギー・ワロニー地域が抵抗 カナダ-EU自由貿易協定が瀕死 逆流に立ち向かうは日本だけ)。

 そんな時代、何を置いてもTPP承認を急ぐ日本、世界の人々の目には何とも異様に映るだろう。

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