EU-カナダ貿易協定 欧州委が早期調印・実施作戦 各国議会の批准を待たずに仮発効 

 

農業情報研究所グローバリゼーション二国間 関係・地域協力ニュース2016年7月6日

 

  EU行政府である欧州委員会が5日、カナダとの自由貿易協定(CETA、包括的経済貿易協定)の調印から発効に至る日程と手続を提案した。欧州委員会は①今年10月のEU-カナダ首脳会談で調印にできるように努力、その後②EU立法府である閣僚理事会(EU加盟国の担当閣僚で構成)と欧州議会(EU市民の直接選挙で選出される議員で構成)の議決を経て仮発効させ、さらに③加盟国議会の批准を経て本発効させるという。

 

  European Commission proposes signature and conclusion of EU-Canada trade deal,European Commission,16.7.5

 

 この提案の”みそ”は、本来なら閣僚理事会と欧州議会の承認で発効するはずなのに、各国議会による批准までは仮発効にとどめたことである。マルムストローム貿易担当委員(貿易大臣)は、「厳格な法的立場からすれば、委員会はこの協定はEUの専権事項に属すると考える。しかしながら、閣僚理事会の政治的状況は明確であり、迅速な調印を可能にするために(加盟国の承認も要する)”混合(mixed)協定としてこれを提案する必要があると考える」と言う。

 

 CETAは関税撤廃だけでなくサービス貿易、公共調達、労働権や環境の保護、製品の安全性、地理的表示保護、投資保護などにかかわるEUでも前例のない包括的な二国間協定である。従って、いくつかの条項は国内法の領域に属すると主張する加盟国もある。裏口からのEU-米国投資協定(TTIP)と言われる所以である。

 

 前に紹介したように、ドイツの市民団体は、CETAは憲法に違反し、企業が国の法廷をバイパス、直接国際法廷に訴えることができるその紛争処理メカニズム(ISD)も民主的正当性を欠くと主張している(ドイツNGO EU-カナダ貿易協定は違憲 憲法裁判所に提訴,16.5.31)。こうした理由からくる協定への抵抗はフランスやオーストリアではもっ強い。ハンガリーとルクセンブルグの議会は、議員との協議を要求する決議を採択している。閣僚理事会がすんなり協定を承認するような「政治的状況ないのは「明確」なわけだ。 

 

 そこで急がば回れ、「協定は実施の次の日からヨーロッパ中の人々と大小企業に利益をもたらす。期待される利益を不必要な遅れなしに刈り取るべく迅速な調印と仮実施を可能にするために、委員会は”混合”協定を提案した」という。それにより閣僚理事会を懐柔、ともかく仮実施に持ち込もうというわけだ(仮実施に持ち込めば、例えば関税撤廃によるカナダ製品の価格低下と選択の幅の拡大が消費者に利益を実感させ、協定反対の気運も弱まるかもしれない、と思ったかどうかはしらないが)。

 

 この作戦が功を奏したかどうか、フランス政府は早速、「フランスは議会がカナダとの貿易協定に意見を述べることができるのを喜ぶ」という報道発表を行った。CETAについては、とりわけ地理的表示の承認による農業部門の利益を見ているようだ。原産地呼称、地理的表示はグローバリゼーション、スーパーの買いたたきにも負けないフランス農業の切り札だ。

 

 Commerce - Accord avec le Canada,Ministère des Affaires étrangères et du Développement international ,16.7.5

 

 ただし、各国議会の関与が対米国貿易投資協定(TTIP)や日・EU経済連携協定(EPA)にも拡張されるとすれば、対外貿易関係をめぐるEUの求心力は、概して低下に向かう可能性が高い。それはEUを離脱するイギリスとの貿易協定にも影を落とす。

 

  一党独裁の日本、TPP批准にそんなややこしい手続きは不要だが、いくら急ぐとはいえアメリカが批准する前の仮発効は無理だろう。「攻めの農業」の切り札も欠く。

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