GM作物共存・責任に関する英国政府バイテク委員会報告

農業情報研究所

03.11.27

 遺伝子組み換え(GM)作物の営業栽培の解禁を目指す政府は、GM作物による汚染により損害を受けた農民の損害を補償する基金を立ち上げ、消費者が非GM食品を選択できるように保証し、GM作物による通常作物の汚染のレベルをEUが設定した0.9%以下に抑えるように、これら作物間の距離を引き離す法的手段を講じ、環境汚染の修復のための補償手段も設けねばならない。英国政府の公式諮問機関である農業・環境バイオテクノロジー委員会(AEBC)が、「GM作物?共存と責任」と題するこのような報告書(GM Crops? Coexistence & Liability)を提出した。

 しかし、委員会にはGM作物の支持者と反対者が含まれる。多くの点で対立が残った。とりわけ、有機農業・食品との共存については対立が深い。GM作物を栽培する農民が厳格なガイドラインに従わねばならいことことでは一致しているが、これが有機農業団体の望むGM汚染ゼロ(実際には検出限界の0.1%)までカバーすべきかどうかでは合意できなかった。GM汚染による損害を補償する基金の必要性では合意があるが、有機食品の汚染に誰が責任を負うかでは分裂した。もし営業栽培を許可するとすれば、これらの未決の問題の扱いも含め、政府が事前に片付けねばならない課題は膨大である。栽培が許可されても、面的広がりは大きく制約されることになリそうだし、GM作物栽培農民も厳しいルールに縛られることを覚悟しなければならないだろう。

 報告書は以下の九つの勧告を行なった。

1.GM作物と他の作物の共存に関する政府の政策の主要な狙いは、可能なかぎり消費者の選択を容易にする一方、英国農民が現在及び将来の国内・国際市場に対応することを可能にすることでなければならない。

2.GM作物が営業的に栽培されることになるとすれば、これを栽培する農民は、他の作物の汚染を、少なくとも0.9%以下に抑えるための法的に執行可能な作物管理プロトコルに従うべきことを義務付けられるべきである(注1)。

3.GM作物が販売されるとすれば、共存が現実に達成されているかどうか、またどこまで達成されているかを決定するための共存協定の濃密な監視と監査が存在すべき最初の導入期間がなければならない。

4.共存プロトコルを課す権限をもつ機関は、導入期間に収集されたデータによって共存と消費者選択が達成されていないとわかった場合にはそれを修正する権限を与えられるべきであり、また、政府は、必要ならば、協定が共存j問題を克服しない限り、また克服するまで、GM作物の生産を停止できねばならない。

5.自身は瑕疵がなく生産物の汚染レベルが法定レベルを超えた結果として経済的損失を蒙った農民のための、適当な時期の保険市場の開発を目指した特別補償協定がなければならない(注2)。

6.政府は、GMOの環境放出により引き起こされるすべての損害に対する英国の賠償責任制度を開発するために、EU環境責任指令草案(⇒EU:欧州委員会が環境被害予防・回復責任スキームを採択EU:汚染者負担実現に大きく前進、環境相が政治的合意)の一般的アプローチ[ 汚染者負担原則]を利用すべきである。

7.1990年環境保護法は、刑事責任の有無にかかわらず、GMOの放出により引き起こされた環境損傷に関して応分の適切な環境修復を要求することを権限ある規制当局に許すように修正すべきである。

8.1990年環境保護法は、EU指令草案が取り組む制度を反映してさらに修正されるべきである。GMO放出の拡散影響を含むすべての環境影響を処理する手段は権限ある規制当局の責任とすべきであり、それによってこの当局は修復要求を含む多数の選択肢を随意に使用できることになる。

9.GM作物及びその他の作物の耕作の建設的環境管理のための、共存プロトコルと並んで機能するプロトコルの開発に積極的な考慮が与えられるべきである。

注1.一部委員は、法的取極めが栽培許可をさらに大きく遅延させないないことを条件に、これに合意。有機農民その他0.1%の自主的上限を望む農民のためにいかなる取極めを用意すべきかについては合意できず。GM作物栽培が広範に広がれば、実際上0.1%上限は達成不能になる恐れがあることについては全委員が一致。このために、0.9%、0.1%の上限が実際の農場で達成できるのかどうか、どこまで達成できるのかの調査が必要ということで全員が合意した(→導入当初のデータ収集)。

注2.農民への補償は基本的には保険によるのがベストだが、現在はこれをカバーする保険はないし、誰が保険料を払うかという問題も残っている。導入期間のモニタリングで保険会社のリスク評価のデータを提供することによって、保険市場の開発を助けるべきである。それまでの補償の提供者としては、政府、GM作物の許可をもつ農業バイテク企業、許可保持者とその他の農業資材供給企業、政府と企業の結合、すべての農民―収穫に基づく小額の徴収が考えらられる。0.1%を超えた場合についての補償は意見が分かれた。一方は、農民からの小額徴収でなく、GM許可の保有者と政府、あるいはそのどちらかが補償のための資金を出すべきとしたが、他方は有機農業者は法定ではなく自主的に上限を課したのだから、どこからの補償も期待するのは不合理とする立場を取った。

 関連情報
 EU:欧州委、種子GM汚染上限設定へ、共存は可能なのか,03.9.30

農業情報研究所

グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境