農業情報研究所


米国:政府、GM作物圃場試験前の安全性評価を提案

農業情報研究所(WAPIC)

2002.8.3

 米国政府がバイオテクノロジー派生植物の圃場試験の要件の見直しに動いている。8月2日、政府のの科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy)がそのための提案を発表した。

 その背景には、遺伝子組み換え(GM)作物の圃場実験が非常に増えたために、実験作物の一部が、交雑によってか、他の種子に混じることによって、食品に入り込むのが避けがたくなっているという恐れがある。1994年、米国農務省(USDA)が許可した圃場試験は593件、7,000エーカーであったが、2001年には1,117件、5万7,000エーカーが許可されている。しかし、試験されている作物は、商用または人間消費用の栽培は未承認のものであるから、汚染により健康被害が出たり、食品のリコールにつながる恐れもある。実際、飼料用としてのみ承認されたスターリンク・コーンが食品に入り込み、大量のリコールを引き越したことは周知のとおりである。今年4月には、モンサントとアバンティスが、未承認の組み換えカノーラ種子が農家の圃場に漏れ出ているかもしれないと発表した。

 提案は、圃場試験栽培の前に、食品医薬局(FDA)と環境保護庁(EPA)による事前安全性評価を行なうことを勧めている。この評価は、挿入遺伝子により作物に導入される蛋白質が有毒でないかどうか、アレルギーを引き起こすことはないかどうかを調査する。作物が有害ではなさそうとなると、食品中への低レベルの漏出があっても、警告やリコールは発動されない。また、米国の作物または食品の輸入業者も、未承認GM品の低レベルの存在では持ち込みを阻止されない。ただし、安全性評価は義務ではなく、任意に行なわれる。食品中への漏出が許容される具体的レベルについては言及がない。

 この提案の発効は、パブリック・コメントの期間を経た数ヵ月後のことになる。

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、バイテク産業団体は、消費者に対する安全保証の強化になると歓迎している。しかし、GM食品に反対するワシントンの「食品安全センター」のデレクターは、正しい方向への一歩前進ではあるが、通常作物の健康リスクを生じる恐れのあるGM品種による汚染の問題には触れられていないと見直しの不備を指摘し、また既に行なわれている試験は評価の対象にならないとして、新たなガイドラインが設けられるまでの試験のモラトリアムを要求している。さらに、実験作物が食品中に漏れ出た際に企業を救う口実にもなりかねないという。アメリカ食料雑貨製造者団体スポークスマンは、消費者に強力なシグナルを送るためには、安全性評価は義務化するほうがよいと言う。

 当研究所(農業情報研究所・WAPIC)は、米政府の狙いは、汚染レベルの許容量を認めることで、バイテク企業にリコールとそれに伴なう損害を免れさせることにあると考える。実験が増えることにより遺伝子汚染はますます頻繁になり、不可避になるであろう。そのたびにリコールしていたのでは開発企業はもたない。フランス系メディア(AFP)は、次のように報じている。「ブッシュ政府は、”受け入れ可能な”リスクを評価することで、小量の実験GMOの人間食料への導入を許そうとしている。消費者保護団体は怒りをもってこの措置を非難している」。

 「実質同等」の概念に基づく食品としての安全性評価の方法は変わらない。そうすると、この検査により安全保証のレベルが低下することはあっても、上がることはあり得ない。人間食料に入り込むことを許されたGMOが、大手を振って世界中に流通することになる。特に食糧危機で援助に頼らざるを得ない多くの国は、半強制的にこのようなGMOを受け入れさせられる(援助食糧にスターリンク(NGO緊急リリース要約),02.6.28;世界食糧サミット、米国とバイテク企業の一人勝ち,02.6.18;ジンバブエに遺伝子組み換え穀物受け入れの要請など参照)。不幸にしてGMOの悪影響が現れたとき、米国政府は、世界の人々と自然に対してどう責任を取るというのだろうか。

 Office of Science and Technology Policy,Proposed Federal Actions To Update Field Test Requirements for Biotechnology Derived Plants and To Establish Early Food Safety Assessments for New Proteins Produced by Such Plants,02.8.2
 Earlier Safety Reviews Proposed for Gene-Altered Crops,The New York Times,8.2
 Washington va autoriser des OGM expérimentaux dans l'alimentation,AFP,8.2

HOME GMO