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インド:GMマスタードの承認延期、ヴァンダナ・シヴァ、Bt棉承認取り消しも要求

農業情報研究所(WAPIC)

2002.11.8

 インドの”The Hindu”紙によると、7日、中央政府の遺伝子操作承認委員会(GEAC)は、Pro-Agro社が商用栽培許可を申請していた遺伝子組み換え(GM)マスタード種子の許可を延期した(No nod yet for GM mustard,The Hindu ,11.8)。理由は、開発企業により提出されたデータを分析、解釈するためにはなお時間が必要というものである。環境、保健、その他の省の代表者を含む21人のメンバーが3時間の討議の後にこの結論に達したという。

 消息筋によれば、開発企業の代表者による説明にもかかわらず、何人かの委員会メンバーは保健・安全面をめぐって疑問を出した。特に心配されたのは、西欧とは異なり、インドの一部ではマスタードの葉が野菜として食べられることであった。GM植物の遺伝子が近隣の農地の他のマスタード品種を汚染する可能性についても心配された。このことから、委員会は全会一致で上記の結論に達したという。この問題は3、4週間後に再度討議される。

 この決定の前日、ヴァンダナ・シヴァ等のNGO代表者が記者会見を開き、バイオセイフティや他の作物への影響に関する完全な試験なしにGM種子の承認が行なわれていると批判の声をあげていた。これら代表者は、今年3月のBt棉栽培許可(インド:遺伝子組み換え(GM)棉承認、途上国のGM採用に拍車か,02.3.28)を取り消すことを要求するとともに、GMマスタードの危険性を訴えた(NGOs want clearance to Bt. cotton withdrawn,The Hindu ,11.7)。ヴァンダナ・シヴァは、この記者会見で、Bt棉が播かれたいくつかの州を訪問したチームが、害虫に抵抗性をもち、農薬散布の必要がなく、収量と農民所得が増えるという開発企業(Monsant-Mahyco)の主張が間違っていることを発見したと語っている。彼女は、Bt棉種子は生物多様性に知られざるリスクをもたらし、農民に利益をもたらすことなく高いコストを課すから販売許可を取り消すべきだと農業省に要求、Bt棉による農民の損害を評価するために独立専門家が参加するハイ・レベルの調査委員会を設置すべきだとも言う。

 グリーン・ピースの代表者は、明日のGEAC会合は重要であり、GMマスタードの商用栽培の承認のために利用されてはならないと警告した。この代表者によれば、このGMマスタードは、除草剤に影響されないように、広範な効き目をもつ除草剤・グルホシネートを無毒化するバクテリア遺伝子により改変されたもので、様々なバクテリアからの遺伝子の改変は蛋白質を発現させ、この作物の消費は巨大な潜在的リスクをもつ。

 今回の決定は、これらの主張が一定の効を奏したものと思われ、GM作物採用に向かって驀進する(インド:農相、遺伝子組み換え作物開発状況を語る)政府の動きに一定の歯どめをかけることになるかもしれない。

 (注)先月末、インド業界団体は、今年のインドの棉生産高は、旱魃と作付面積減少のために、5%減少するとの予想、前年のような虫害があれば、生産減少はさらに大きくなると発表している。綿作部門は国全体のほぼ半分に達する農薬を使用しており、多くの農民が損害を最小限に抑えるために害虫抵抗性GM棉に転換した(Indian cotton output set to fall,Financial Times,02.11.1,p.22)。

 関連情報
 インド:ヴァンダナ・シバ「農業を持続可能で、公平に」,02.10.4