エジプト、EUのGMOモラトリアムWTO提訴から撤退

農業情報研究所(WAPIC)

03.5.29

 ”地球の友インタナショナル”が、米国によるEUのGMO「モラトリアム」のWTO提訴にエジプトが参加しないとEUに伝えたことを明らかにした(Friend of the Earth International Press Release:EGYPT WITHDRAWS FROM WTO GM COMPLAINT(5.28))。

 5月13日の米国の発表では、この提訴にアルゼンチン、カナダ、エジプトが加わるとされていたが、5月27日付のエジプトEU大使書簡は、「エジプト政府は、適切で有効な消費者と環境の保護を維持する必要性を意識し、またこの問題をWTO内部でさらに追及することから生じる恐れがある国際貿易のさらなる歪曲と障害を減らすことを望んで、この決定を行なった」と述べているという。

 ファイナンシャル・タイムズ紙によれば(1)、米国担当官は直ちに反論、エジプトは提訴を支持していると語ったが、エジプトは提訴支持にかかわるいかなる文書もWTOに提出していないという。エジプトはEUの伝統的貿易相手である。アルゼンチンはGM作物も大規模に導入しているが、米国がGMコーンを導入して以来、EU向けのコーン輸出は米国のシェアを奪い、3倍に増えた。EUへの輸出のために非GMコーンは重要である。米国が堅固な支持を失う可能性も考えられる。

 地球の友のプレス・リリースは、エジプトの決定はGM食品・作物をヨーロッパに受け入れさせようとする米国政府の試みへの重大な打撃だと言っている。米国ブッシュ大統領は、今月21日、米国沿岸警備隊アカデミーの卒業生を前に、新たな高収量バイテク作物の利用がアフリカでの農業生産性と食糧供給を劇的に改善するのに、EUのGMO反対がアフリカの飢餓を減らそうとする米国の善意の努力を邪魔していると演説した(2)。米国がEUに「モラトリアム」解除を迫る最大の理由・目的は、いうまでもなく米国農業とアグリビジネスの利益の実現であるが、途上国の飢餓解消におけるGMOの役割の大きさを強調することで、その主張が普遍的意味をもつこと世界に喧伝しているのである。しかし、有力途上国の一つであるエジプトが「同盟者」から脱落すれば、確かに「米国政府の試みへの重大な打撃」となるであろう。

 しかし、打撃はGMOの世界的普及の目論見にかかわるだけではない。米国は、自国市場の開放を代償に相手国に政治的民主化と経済的自由化を迫る二国間自由貿易協定を次々と締結、それによって目下の米国の最優先目標である国際テロ封じこめのための「同盟国」ネットワークの構築に驀進している(3)。とりわけテロとの直接的関連が深いアラブ諸国のなかでは、エジプトは、モロッコ、バーレーンとともに、このような協定相手の最有力候補となっている。GMO問題でのエジプトの同盟からの脱落は、このような米国のテロ撲滅戦略にほころびをもたらす恐れがある。この意味でも、米国にとっての重大な打撃となる可能性がある。

 (1)Blow to US as Egypt pulles out of challenge over modified crops,Financial Times,5.29,p.4
 (2)Bush Lashes Out at Europe:President Says Aversion to Biotech Perpetuates African Hunger,The New York Times,5.22
   Bush says Europe hinders aid to Africa,FT com,5.22
 3危険な米国の地域貿易交渉戦略(農業情報研究所=WAPIC),03.4.18
    北林寿信「地域経済統合の現状と展望」 『国際農林業協力』 2003年4/5月合併号(近刊)

 関連情報
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 米国・EU間のGMO紛争:世界のニュースと論調集載,03.5.21