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米国・EU間のGMO紛争:世界のニュースと論調集載

03.5.21

 以下は当所(農業情報研究所=WAPIC)のホームページの「世界のニュースと論調」に紹介したEUのGMO承認モラトリアムをめぐる米国との紛争に関連する記事を収載したたものである。

 2003年 2002年 その他関連情報

2003年

貿易と環境のバランスを見つけ出す(投稿)
Finding a balance between trade and environment(Robert Falkner,Lecturer in International Relations,London School of Economics),Financial Times,5.20
EUの遺伝子組み換え作物(GMO)承認モラトリアムを米国がWTOに訴えたことはドーハ貿易ラウンドと環境外交にダメージを与えるだろう。リスクに対する規制的アプローチと予防との間の紛争は訴訟ではなく、交渉を通じて扱うのが最善である。GMOのケースでは、これは、まさしく3年前に調印された生物多様性に関するカタルヘナ議定書の形で起きたことである。生物多様性条約はGMOに関連した環境リスクに対して予防的貿易措置を取る各国に保護を与えている。GMOからくる不確実で、しかし可能性としては深刻な生物多様性と人間の健康への脅威を考え、国際社会は用心するに超した事はないとし、科学または貿易の専門家の国際パネルではなく、国民がバイオテクノロジーの便益とリスクのバランスを取ることを許す決断をしたのである。最低限、WTOは、貿易の利害だけでなく、社会的価値にかかわるケースで裁決を下すのは難しいと言えよう。
 米国が調印はしたが批准していない生物多様性条約で到達した国際的妥協は、今や
WTOへの提訴という米国政府の決定により脅威にさらされている。貿易専門家はWTOルールと環境条約の正確な関係について、なお意見を異にしている。しかし、政治的には、国連が保証人となる環境条約が環境問題を規制する最善のフォーラムだと認める貿易と環境の微妙なバランスが現われている。米国が国際環境条約のより広大な文脈を無視するWTO貿易原則の狭隘な解釈を推し進めれば、グローバルな環境政策形成にまたも大打撃を与えることになる。ブッシュ大統領の京都議定書拒否は、多国間主義の原則だけでなく、地球環境の持続可能性の原則に対するより広範な攻撃を開始する動きであったという疑いが強まっている。

WTOを新市場を求める衝角として利用するな(投稿)
Do not use WTO as a battering ram for new markets(Cowan Coventry,Chief Executive,Intermediate Technology Development Groupes,Schumacher Center for Technology and Development,UK),Financial Times,5.19,p.12
安全性を深く心配する国に遺伝子組み換え(GM)作物を押し付けるための米国による国際貿易ルールの利用は大変無責任である。途上国にGM技術を押し付けることは、世界の生物多様性と飢えた人々を養う農業システムに深刻な結果をもたらす恐れがある。GM作物が食料生産・健康・環境に損害を与えるのか、利益をもたらすのか、科学界の合意はできていない。このような複雑な問題は慎重で、客観的なアセスを要し、米国とEUの貿易法律家が言い争うべきことではない。貿易交渉者が世界の飢えた人々を真面目に助けようとするならば、WTOをGM技術の市場を開くための衝角として利用するのではなく、飢えた人々の削減と農村の生計の改善における農業科学・技術の役割に関する世銀の国際的アセスメント(世銀:農業科学のリスクと機会を探る国際協議プロセスを始動,02.8.31)を支持すべきである。

米国とアルゼンチンの高官、EUのGMO禁止に共同戦線
 
US,Argentine officials vow common front gainst EU GMO ban,soyatech.com,3.14
 13日、アルゼンチンの外務副大臣が米国通商次席代表と一緒の記者会見で、「我々は(WTO提訴で)未だ決定はしていないが、GMOがアルゼンチンの農業開発を助けてきたから、関心を共有する」と語る。副大臣によれば、国の大豆の95%、棉の25%がGMOである。

共和党議員、食品紛争の国際貿易法廷への訴えを大統領に要請
 
Republicans Ask Bush To Take Food Dispute To International Trade Court,AP,1.29
 米国下院共和党の指導者・デニス・ハスタートが、米国からの遺伝子組み換え食品を禁止しているEUの政策は米国農民に対して差別的であり、損害を与えていると、ブッシュ大統領に問題をWTOに訴えるように要請。大統領宛て書簡で、彼はEUの米国からの遺伝子組み換え農産物輸入品に関する1988年以来のモラトリアムは、年に3億ドルの損害を米国農民に与えていると言う。

米国:遺伝子組み換え食品でヨーロッパを困らせるな(経済戦略研究所所長・Clyde Prestowitz)
 
Don't Pester Europe on Genetically Modified Food,The New York Times,1.25
 最近、ブッシュ政府は、遺伝子組み換え(GM)食品の輸入禁止のたのためにEUをWTOに訴えることを考えていると発表したが、これはひどく間違ったアイデアだ。予防原則に基づく科学的根拠のないGM食品の禁止は明らかなWTOルール違反であり、WTOに訴えれば米国は簡単に勝訴できるであろう。しかし、現在の状況は、勝訴しても市場だけでなく、わが国の一層広範な利益も失うことになる。二つのことを思い起こさねばならない。一つは、ヨーロッパは、最近、汚染食品でいくつかの最悪の経験をしたことだ。1990年代の保健専門家は、多数のイギリス人が死ぬまで狂牛病の牛の牛肉は完全に安全だと主張した。この経験は、米国と異なり、食品はヨーロッパの文化であるだけに、ヨーロッパ人の心に焼きついている。心配する科学的根拠はないかもしれないが、実験的操作から生じるものを食べるのは、多くのヨーロッパ人には本物の否定と感じられる。米国人がGM製品受け入れを強要すれば、ヨーロッパは米国の文化的・経済的帝国主義の臭いを嗅ぎつけるに違いない。WTOでの勝利は消費者の抵抗を確実に強めるだけであろう。政府は消費者に選択を与えるだけと言うだろうが、ヨーロッパへの販売経験をもつ私に言わせれば、それは米国食品全体に反対するキャンペーンを生み出すと保証できる。ここで第二の問題に至る。我々は、既にEUが主導する地球温暖化に関する京都議定書や国際犯罪裁判所の拒否でヨーロッパ同盟国の重大な怒りを買っている。ペルシャ湾、あるいは北朝鮮で米国が取る行動へのヨーロッパの支持を求めるのならば、GMポテトを売り込むといった小事にこだわっているときではない。いくつかの国がGMコーンを受け入れるより飢餓を選ぶと言うのにはぞっとするが、ヨーロッパ人の喉にGM食品を飲み下すように強制することは、彼らがポテトはもちろん、その他多数の一層重要な米国の提案を飲み込まないように保証する最も確実な方法である。

2002年

新たな米国・EU貿易戦争の気配
 
New US-EU trade war looms,BBCNews,12.2
 米国の貿易担当官が、遺伝子組み換え(GM)食品の輸入を阻止していることで、EUをWTOに訴える手続を開始するようにブッシュ政府に要請した。以前、米国は、ヨーロッパの反GM感情の強さを心に留め、またEUが米国輸出穀物に強制表示を迫ることを懸念して、公式な提訴を控えてきた。しかし、米国担当官は米国輸出農産物の拒否が世界中、特にアフリカに広がることを恐れている。ロック・スターのボノとともにアフリカを訪ねたオニール財務長官もヨーロッパに対する強硬な行動を支持している。それでも、国務省は、イラクでの戦争に支持を得ようとしているときにヨーロッパ市民の意見を退けるのは賢明ではないと警告した。米国はWTOに訴えれば勝てる可能性が高い。しかし、勝訴したホルモン牛肉紛争でも、裁定が下りるまでには多年を要し、必ずしも問題が決着したわけでもない。EUは米国牛肉を許さず、毎年1億ドルの罰金を払う方を選んだ。環境保護論者も、WTOがGM食品は安全と裁定したとしても、ヨーロッパ消費者はそれを買うことを納得しないだろうと信じている。また、目下のWTO農業交渉での切り札はEUが握る可能性がある。貿易閣僚は、将来、モントリオール議定書(バイオセイフティ議定書)のような環境協定は貿易協定と同等な法的拘束力をもつべきだと、原則合意しているからである。

米国、EUと衝突するGMO戦術を転換
 US shifts tactics in GMO clash with EU,Financial Times,10.15,p.7
 遺伝子組み換え体(GMO)の承認手続を厳格化するEUの新指令(2001年の指令2001/18/EC、北林寿信「遺伝子組み換え作物をめぐる国際情勢と再出発めざすEU」、『レファレンス(国立国会図書館調査局)』2002年7月号を参照)が発効、欧州委員会は承認再開を期待しているが、いくつかのEU加盟国はなお禁止解除を拒否しつづけるであろう。それにもかかわらず、米国は、WTOに訴えるという従来からの脅しを止め、EUを孤立化させる複雑な外交戦略をとろうとしている。特に、中国やいくつかのアジアの国のGMO反対の態度を和らげることに注力している。
 関連
 EU ban stays on new GM crops,Financial Times,10.18,p.7
 Editorial:Genetic code,Financial Times,10.14,p.14

米国−EU:ブッシュ、GM作物でEUいじめ
 Bush baits Brussels over GM crops,Independent,8.25
 米国政府はEUにGM作物に対する厳しい態度を止めさせるべく、貿易戦争を開始する。米国通商代表・ロバート・ゼーリックがEUのGM作物輸入モラトリアムと作物実験は貿易制限だと主張してWTO提訴を準備中。これはGM作物開発の中枢に位置するモンサント・グループに後押しされている。

米国・EU:米国、遺伝子組み換え作物でEUに警告
 
US warns EU on modified crops,Financial Times,6.21,p.7
 20日、米国は、新たなGM作物の承認を4年にわたり拒否しているEUが米国産業に巨大な損害をもたらしているとして、EUをWTOに提訴するという明確な警告を発した。米国の怒りは、欧州委員会がGM食品のトレースと表示に関する新たな規則案を発表して以来、とみに大きくなっている。

その他関連情報

米国、GMO規制でEUをWTO提訴、欧州委は断固反論,03.5.14
米国:遺伝子組み換え(GM)作物承認モラトリアムでEUをWTO提訴へ,03.5.13
欧州委、EU12ヵ国にGMO環境放出指令実施を迫る,03.4.12
EU:法務官意見、EU諸国は健康リスクがあればGM食品を禁止できる,03.3.26
GMO紛争、米国がEU提訴を延期したが、その先は?,03.2.10
EUのGMO承認モラトリアム、米国はWTO提訴に踏み切るのか?,02.12.20
EU:決断迫られるGMOモラトリアムの解除、先行きは不透明,02.9.13