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米国:EUのGM作物「モラトリアム」でWTOパネル設置を要請

農業情報研究所(WAPIC)

03.8.8

 8月23日、米国通商代表・ロバート・ゼーリックと米国農務省長官・アン・ベナマンは、「EUの5年間に及ぶ違法な農業バイオテクノロジー製品モラトリアム」についてWTO紛争処理パネルの設置を要求すると発表した(USDA News Release:United States Requests Dispute Panel in WTO Challenge to EU Biotech Moratorium)。カナダ、アルゼンチンとともに5月に提訴したが、紛争処理の第一段階としてのEUとの協議が不調に終わったためである。ゼーリックは、「米国、カナダ、アルゼンチンの代表は6月にEU当局者と協議したが、EUはバイオテクノロジー製品に対する根拠のないモラトリアムを解除することでWTOの義務を守る意志を示さなかった」と語っている。カナダとアルゼンチンもパネル設置を要請するだろうという。

 訴えの根拠はWTOの衛生植物検疫(SPS)協定としているようだ。SPS協定は健康と環境を保護するために作物や食品の規制する権限を加盟国に与えているが、そのような措置を取るためには「十分な科学的証拠」がなければならないとしている。しかし、このレリースは、EUが1999年に「すべての新たな承認申請の審査を停止、新たな承認のこのモラトリアムの科学的証拠を提供していない」としている。訴える対象はEU構成国のバイテク製品禁止とEUワイドのモラトリアムの両方だという。その理由として、EU側の事実を次のようなものだと主張している。

 「1990年代末以来、EUは農業バイテクとバイテク製品貿易を侵食する政策を追及してきた。6ヵ国(オーストリア、フランス。ドイツ、イタリア、ギリシャ、ルクセンブルグ)はEUにより承認された遺伝子組み換え(GM)作物を禁止した。この承認のモラトリアムは米国農産物輸出品の増大する部分がEU市場から排除される原因をなし、また世界中、特に途上国にバイテク製品をめぐる不安を投げかけている。このモラトリアムはコーンや大豆のような以前に承認された製品には何の影響も及ぼしておらず、EU構成国においてなお利用されており、利用することができる。米国のWTO提訴は構成国の禁止とEUワイドのモラトリアムを対象とする」。EUは7月22日にトレーサビリティーと表示に関する新規則を採択し、バイテク食品・飼料の新たな承認手続を定める新規則も発効して6ヵ月になるが、いすれも違法なモラトリアムを解除するものではなく、米国のWTO提訴に影響を与えるものではないと主張している。

 このような主張からすると、米国は専ら「モラトリアム」を問題にしているようで、表示やトレーサビリティーの規制に挑戦するつもりはなさそうだ。その場合、EUの「モラトリアム」はあくまで「事実上」のもので、「法的」なものではないことをWTOがどう「法的」に裁けるのか疑問がある。EUは、米国が発効後6ヵ月になるというGMOの環境放出に関する新規則の下で新たな承認の手続に入っているのだから、現在は「EUワイドのモラトリアム」があるとも言い切れないし、パネルの決定が出るころには新規承認が実現している可能性が高い。そもそも欧州委員会はGM技術導入に躍起になっているのであり、すすんで「モラトリアム」をしようなどという気は毛頭ない。EUでその導入が遅滞しているのは、消費者や農民が抵抗しているからであり、これは消費者と農民の選択の問題であって、EUの問題ではない。

 EU構成国の禁止は、EUレベルで承認されても各国レベルでの一時的販売禁止を許すEU法(指令90/220/EEC第16条、セーフガード条項)に基づくものであり、欧州委員会は、このような禁止を正当化する科学的証拠の提出を求め、その評価を行なっている。この問題についても簡単に裁くことができるようには思えない。「科学的証拠」については、パネルがどんな結論を出そうと、GM技術の安全性に関する議論が決着するはずもない。対立が深まるだけであろう。

 米国がこの提訴に何をかけているのか、理解に苦しむばかりである。

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