英国:ガーディアン報道を王立協会が批難、欧州委にGM禁止容認の雰囲気?

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.4

 ガーディアン記事を王立協会が批難

 一昨日、「ガーディアン」紙が、3年間のGM作物の実験に関する報告はGMナタネ・ビートの環境への有害性を認め、これらの栽培を許すべきでないとしていると報じたことをこのホームページで伝えた(⇒英国:GMナタネ・ビートは環境に有害、実験評価報告が不許可を主張か、03.10.2)。10月2日、王立協会(ロイヤル・ソサイエティー)が、この報道を激しく批判するMedia Releasesを発表した。ガーディアンは自らの商業的利益を優先、読者による大受けを狙って推測記事を発表したのだと言う。

 ロイヤル・ソサイエティーのステフェン・コックス事務局長は、「先週のGM国民論争に関する報告書は、国民がGMに関する情報の独立性と清廉潔白―GMに特別の利害関係をもついかなるグループの影響も反映しない保証―への信頼性を強調した。我々は、”GM圧力団体への深刻な打撃”とガーディアンが書く推測記事中の情報は、国民の訴えに真っ向から逆らうものだ信じる」と言う。

 彼によれば、GM作物の農場レベルでの実験の結果を記述する八つの科学的報告は1016日(ガーディアン紙は1010日としていた)にロイヤル・ソサイエティーの’Biological Sciences’誌に発表される予定で、多くの情報を含み、誰もが自由に利用できるようにウエブサイトに載せる準備も進めているという。彼は、八つの科学的報告の全内容を短い言葉に要約するガーディアンの試みは、実験の評価を行なった報告書の著者、あるいは’Biological Sciences’誌のチェックを受けておらず、82日の「イアンディペンデント」紙の同類の推測記事の内容とほとんど変わらないと批判している。

 報告書発表の日付が間違っていること、九つ目の要約ペーパーの発表の拒否の理由を間違って伝えていること(ガーディアンは、「ロイヤル・ソサイエティーの説明は、九つ目のペーパーは科学的文書ではなく、発見の要約であり、実際にはGM作物の環境放出諮問委員会への勧告になっているということだ」としていた)を見ただけでも、記事の残りの部分の正確性についても自ずと推測できると手厳しい。821日の「インディペンデント」の記事は、八つの報告書の複雑な結果を説明し、要約する九つ目の報告書の起草者は、その審査を行なう科学者から、新しいデータを含まないから発表を止めるように勧告されたと報じていた(⇒イギリス:GM作物フィールド実験評価報告を王立協会が拒否,03,9.22)。

 普通の国民が膨大な報告書のすべてを読み、理解することは不可能だ。なぜ要約ペーパーが発表されてはならないのか、今回のロイヤル・ソサイエティーのリリースにもかかわらず、依然として不透明感は残る。

 ガーディアン紙記事へのEU・英国内の反応

 ガーディアン自身は、翌3日付の記事(Threat to wildlife enough to ban GM crops, MEPs told )で、このようなロイヤル・ソサイエティーの批判が出たことに触れたが、それに真っ向から反論する代わりに(報告書の発表時期については10月16日に改めている)、2日のガーディアン紙記事へのEUや国内の反応を伝えている。

 生物多様性への脅威のために英国が一方的にGM作物を禁止するのを許すのかどうかという欧州議会議員の環境委員会での質問に、ディヴィッド・バーン担当委員は、”It would”、しかし、3年間の実験の結果は未だ見ていないと答えたという。サウス・イースト・イングランドの緑の党欧州議会議員・カロリーヌ・ルーカスは、ブリュッセルでの会合の後、「欧州委員会は、GMが社会・政治問題であり、単なる経済問題ではないことを明かに認め始めた」、「公衆の反対とGMから生じる様々な危険の科学的証拠の増大に直面し、欧州委員会は、EU各国がGM作物を拒否するのを許さねばならないことを、ためらいながらも受け入れつつある」と語った。

 実験を立ち上げた前環境相・ミーチャーは、「労働党政府が現時点でこれらの作物にゴーサインを出すとは、実際考えられない。永久にノーと言うには及ばないが、未だ、多くの一層の研究がなされるまではノーとは言える」と語り、自由民主党の農村問題スポークスマンのアンドリュー・ジョージも、「もしこれらの漏出した情報が正確だとすれば、政府は予想しなかった決定を直視せねばならない」と語ったという。

 英国におけるこのような成り行きに鑑み、わが国でも、開発者の環境影響評価を鵜呑みにするのではなく、一般栽培の許可に先立ち、独自の実験を行なうことが不可欠なのではないか。BSEがもたらした大災厄の経験から得られた教訓は、英国ではGM作物をめぐる問題でも生かされている。取り返しのつかない結果が現実のものとなるまでまともな対応を考えず、BSEについてなされたような深刻な反省を再び繰り返すことになるのだろうか。そうであれば、BSE問題での反省さえ本物かどうか疑われる。

 農業情報研究所(WAPIC)

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