WTO、EUのGMOモラトリアムで科学者の意見聴取へ 決定は延期か

農業情報研究所(WAPIC)

04.8.28

 27日付のワシントン・ポスト紙に掲載されたAP通信員のジュネーブからの報道によると(WTO Delays Decision on E.U.'s Biotech Ban,The Washington Post,8.27)、8月20日、WTO紛争処理委員会(パネル)は、EUで販売される遺伝子組み換え作物・食品(GMO)の新規承認のモラトリアムをWTOルール違反とする米国・カナダ・アルゼンチンによる昨年の提訴に関する決定に先立ち、専門家の証言を聴くことを決めた。これは、今年末と予想されていたパネル報告が来年3月遅くまで延期されるだろうことを意味するという。

 米国は、この件は法律問題として解決されるもので、科学的アドバイスは無用としていたが、EUは論議の焦点を貿易ルールの問題から健康・環境保護の問題に移すように求めていた。この決定は、EUの取りあえずの勝利ということになる。ジュネーブのWTO報道員は、貿易機関が科学的アドバイスを求めるのは異例のことではなく、科学者はアスベストや動植物衛生問題をめぐる紛争処理パネルを助けてきたと言う。

 ただ、GMOの人間の健康や環境に対する影響については、科学界自体の見解が分裂したままであり、当分はコンセンサスができないだろう。パネルは依然として難題の処理に苦労するだろう。科学界の見解がこれほど分裂した問題をWTOが扱った前例はない。最終的にどんな決定が出るにせよ、問題が解決されるとは考えられない。ホルモン牛肉問題同様の泥沼の争いが、一層規模を大きくして継続するだろう。

 なお、訴えの対象となったEUの6年に及ぶ「事実上の」モラトリアムは、今年5月の食品としてのGMスウィートコーンの承認により、既に解除されている。先月は、別の除草剤耐性コーンも承認された。EU各国の意見は割れて、閣僚理事会では承認も拒否も決められなかったが、EU政府たる欧州委員会が、”職権”で承認した。欧州委員会は否定するが、一部環境団体等は米国の圧力に屈した結果と批判してきた。

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