モンサント、近々のGM小麦開発計画復活はない 利益本位の農業バイテク開発に疑念
05.3.21
ロイターの3月16日付け報道によると、モンサント社が15日、昨年5月に中断した遺伝子組み換え(GM)小麦の開発計画を近い将来復活させることはありそうもないと表明した。その代わりに、コレステロールを生成するトランス脂肪酸含有が低レベルの調理用油を生産する通常育種の大豆品種に開発資源を注ぐという(Reuters Summit: Monsanto: Biotech Wheat Revival Unlikely,Reuters,3.16) 。
モンサント社のジェリー・スタイナー副社長は、シカゴで”Reuters Food Summit”に対し、健康志向の高まりに応える食品や油の方が商機がある、当面、小麦に資源を注入するのはそれほど儲からないと語った。開発する大豆は、大豆油の安定性(長持ち)改善を助けるがトランス脂肪を生成する水素添加の必要性を減らす低リノレン酸大豆になろうと言う。トランス脂肪は、心臓病につながる動物脂肪などの他の形態の脂肪以上に心臓に有害とされている。
副社長によると、この春、アイオワで4万haにこの大豆が栽培されることになる。次の4年から5年の間に200万haにまでなり、米国の大豆栽培面積全体の7%を占めるようになる可能性がある。
モンサント社は、同社のラウンドアップ除草剤に耐性をもつラウンドアップ小麦を6年間にわたってフィールド実験、多額の資金をその開発に注ぎ込んできた。それは、巨大多国籍種子企業のGM種子による世界種子市場、従ってまた世界の農業生産・食料供給システムの制覇という当初の野望の実現のカギを握ると見られている。しかし、中心的食料作物の遺伝子操作に対する世界中の消費者の警戒が高まるなかで、その開発計画の中断に追い込まれている。カナダと米国での商業栽培許可申請を取り下げた。副社長は、「来年には復活させる?それは高度にありそうにない」と語ったという。
彼は、会社がこの開発計画の推進は小麦産業を分裂させると結論したと語る。ロイターは、バイオテクノロジーが「苦闘する小麦生産者の利益改善につながる可能性のあると言う小麦産業のリーダーさえも、ラウンドアップ小麦は、多くの国のバイヤーがGM作物受け入れを拒否するから、米国とカナダのすべての小麦の輸出を打ちのめす恐れがあると警告した」と報じる。
ただし、これはあくまでも市場が受け入れないかぎり、会社の利益にならないという判断に基づくものだ。判断の基準は、あくまでの会社の利益だ。広言してきたように、GM技術が生産者・消費者に多大な利益をもたらし、また世界の持続的農業生産・食料供給に資するというのならば、企業の利益本位の決定はあり得ないはずだ。逆に言えば、利益本位の企業に世界種子市場、食料・農業生産を委ねることの危険性が浮かび上がる。仮にどれほど有益な技術であっても、企業の利益にならない技術は実施への道を閉ざされるということだ。
実際、これまでに開発され、普及してきたGM作物のほとんどすべては、モンサント、バイエル・クロップサイエンス、ダウ・アグロサイエンス、パイオニア・ハイブレッド、シンジェンタ・シーズなどの多国籍企業が開発したものだ(注1)。最大の普及を見ているのは、汎用性除草剤であるラウンドアップ(グリホサート)のセット販売で利益を確保できる除草剤耐性作物だ(世界のGM作物面積全体の72%―04年)。ほとんどのGM種子を自家採種か密輸に依存し、特許料を払わない米国に次ぐGM作物栽培国・アルゼンチンやブラジルでモンサントが上げる利益は、除草剤販売で得る利益以外に何もない。もしも特許料徴収となれば、生産者に多大な利益をもたらしていると主張されるこれらの国のGM大豆栽培さえ後退するかもしれない(再三の交渉にもかかわらず、モンサントは特許料徴収に成功していない。この18日にも、AFXが、特許を得ているヨーロッパに輸出されたGM大豆にトン当たり15ドルの科料を課すというモンサントの苦肉の提案をアルゼンチン政府が拒否したと報じている⇒Argentina govt dismisses Monsanto threat to fine its GM soy exports to Europe,AFX-Asia,3.18)。
市場規模が小さな消費者利益優先作物や、とりわけ途上国の農業生産と食料安全保障、栄養改善に大きく寄与すると主張される多収作物・干ばつや塩害に強い作物、栄養成分改良作物などは、健康・環境影響への一層の懸念が払拭されないばかりか、開発・実用化にほど遠いのが現実だ。よりマイナーな企業は、特に先進国向けのいくつかの成分改良作物が商品化しているが、市場にはほとんど浸透していない。
果実・野菜種子企業などを相次いで買収、消費者利益優先を強調することでGM不信を振り払おうと回り道を選んだモンサントも、野望実現への道はなお遠い。
関連情報
モンサント、果実・野菜種苗大手を買収 GM技術の消費者売り込みが狙い?,05.1.26
モンサント、トランス脂肪を減らす大豆の開発へ、消費者獲得に本腰,03.10.28
モンサント、薬用GM作物開発から撤退、欧州事業も縮小へ,03.10.17
なお、GM作物研究開発動向に関する農業情報研究所(WAPIC)によるこれまでの情報は⇒研究開発動向
(注1)バイテク推進団体・バイオテクノロジー産業機関(BIO)が掲げる「市販中及び近々(6年以内)の商品化が予想されるバイテク作物は次の通りだ(http://www.bio.org/speeches/pubs/er/agri_products.asp)。
市販されているもの
作物 |
製品名 |
形質 |
開発企業 |
備考 |
カノーラ |
LibertyLink®
|
HT |
Bayer
CropScience |
除草剤Liberty®耐性。 |
InVigor®
Hybrid |
HT |
Bayer
CropScience |
除草剤Liberty®耐性。 |
|
Natreon®
Naturally Stable |
成分改変 |
Dow
AgroSciences |
トランス脂肪を含まず、油の変性を防ぐ。 |
|
Roundup
Ready® |
HT |
Monsanto |
除草剤Roundup®耐性 |
|
トウモロコシ |
Rogers®
Attribute™ Bt S. Corn |
害虫抵抗性 |
Syngenta
Seeds |
European
corn borer、corn earwormに効果。 |
Herculex™
I Insect Protection |
害虫抵抗性 |
Dow
AgroSciences, Pioneer Hi-Bred |
適用害虫は広範。 |
|
LibertyLink®
|
HT |
Bayer
CropScience |
除草剤Liberty®耐性 |
|
NK®
brand YieldGard® (Bt 11) |
害虫抵抗性 |
Syngenta
Seeds |
一定害虫に効果。YieldGard®はモンサントの登録商標。 |
|
Roundup
Ready® |
HT |
Monsanto |
除草剤Roundup®耐性。 |
|
YieldGard®
Corn Borer |
害虫抵抗性 |
Monsanto |
European
corn borer、Southwestern corn borerに効果。 |
|
YieldGard®
Rootworm-Protected |
害虫抵抗性 |
Monsanto |
corn
rootwormに効果。HTを兼ねるものあり。 |
|
花 |
Moondust™
Carnation |
花色改変 |
Florigene |
バイオレットの花色のカーネーション。 |
ワタ |
Bollgard®
Insect-Protected |
害虫抵抗性 |
Monsanto |
cotton
bollworms, pink bollwormsなどに効果。 |
Bollgard®
II Insect-Protected |
害虫抵抗性 |
Monsanto |
広範な害虫に効果。 |
|
LibertyLink®
|
HT |
Bayer
CropScience |
除草剤Liberty®耐性。 |
|
Roundup
Ready® |
HT |
Monsanto |
除草剤Roundup®耐性。 |
|
パパイヤ |
Rainbow
and SunUp |
ウィルス抵抗性 |
コーネル研究財団他 |
輪紋病ウィルスに抵抗性。 |
ピーナツ |
Flavr
Runner Naturally Stable |
成分改変 |
Mycogen |
オレイン酸含有量を増やす。 |
ナタネ |
Laurical® |
成分改変 |
Calgene |
油の成分改変で石鹸・洗剤等の高品質原料を安価に生産。 |
大豆 |
Roundup
Ready® |
HT |
Monsanto |
除草剤Roundup®耐性 |
ヒマワリ |
Naturally
Stable Sunflower |
成分改変 |
Mycogen |
トランス脂肪を含まず、油の変性を防ぐ。 |
6年以内に商品化が予想されるもの
作物種 |
製品名 |
形質 |
開発企業 |
備考 |
牧草 |
Roundup
Ready® |
HT |
Monsant |
除草剤Liberty®耐性アルファルファ |
リンゴ |
Bt
Insect-Protected |
害虫抵抗性 |
Monsant |
ヒメハマキに抵抗性。 |
バナナ |
Disease-Resistant |
耐病性 |
DNA
Plant Tec.Co. |
真菌病に抵抗。 |
Long-Shelf-life
|
日持ち性改善 |
Syngenta |
|
|
カノーラ |
Disease-Resistant
|
耐病性 |
DuPont |
スクレラティーナなどの細菌病に耐性。 |
トウモロコシ |
Drought
Response |
干ばつ耐性 |
DuPont |
干ばつに耐え、収量も増やすハイブリッド・コーン。 |
Energy-Availability
|
栄養吸収改善 |
DuPont |
消化がよく、栄養吸収効率を増す家畜飼料用コーン。 |
|
Nutritionally
Enhanced |
栄養強化 |
Dow
AgroSciences |
栄養を増強した家畜飼料用ハイブリッド・コーン。 |
|
Rootworm-Resistant
|
害虫抵抗性 |
Dow
agroSciences, Pioneer Hi-Bred |
根食害害虫を殺す蛋白質を生産するハイブリッド種。 |
|
Corn
Amylase |
成分改変 |
Syngenta |
アミラーゼを含むコーンでエタノール生産費削減。 |
|
Glyphosate-Tolerant
|
HT |
Syngenta |
植物由来グリホサート耐性遺伝子から開発。 |
|
Insect-Resistant
|
害虫抵抗性 |
Syngenta |
European
corn borer と corn rootwormに効く。 |
|
ワタ |
Widestrike™
Insect-Protected |
害虫抵抗性 |
Dow
AgroSciences |
効果のある害虫種の拡大。 |
Next-Generation
Roundup-Ready® |
HT |
Monsanto |
施用窓口を拡大。 |
|
Vegetative
Insecticidal Protein |
害虫抵抗性 |
Syngenta |
適用範囲拡大と新たな作用様式。 |
|
レタス |
Roundup
Ready® Lettuce |
HT |
Monsanto |
Roundup®の上部からの施用を可能にする。 |
コメ |
LibertyLink®
Rice |
HT |
Bayer
CropScience |
Liberty®耐性。施用の柔軟性。 |
大豆 |
LibertyLink®
Soybeans |
HT |
Bayer
CropScience |
Liberty®耐性。施用の柔軟性。 |
Soybeans
with Improved Protein Functionality |
成分改変 |
Dupont |
食品の品質の安定性を改善。 |
|
イチゴ |
Strawberry |
HT・耐病性 |
DNA
Plant tech. |
グリホサート耐性と真菌病抵抗性。 |
テンサイ |
Roundup
Ready® Sugar Beets |
HT |
Monsanto |
Roundup®耐性。 |
芝生 |
Roundup
Ready® Creeping Bentgrass |
HT |
Monsanto |
Roundup®耐性。ゴルフコースの雑草抑制を容易にし、費用を減らす。 |
小麦 |
Roundup
Ready® Wheat |
HT |
Monsanto |
Roundup®耐性。 |
Fusarium
Resistant Wheat |
耐病性 |
Syngent |
フザリウム抵抗性。 |