地球の友等 GM食品に関する欧州委の二重基準を暴露 セーフティーネットは機能不全

農業情報研究所(WAPIC)

06.4.19

 地球の友・ヨーロッパとグリーンピースが18日、遺伝子組み換え(GM)食品・作物の貿易をめぐるEUと米国等の間の紛争を処理するWTOパネルで欧州委員会が主張した科学的根拠を明らかにする文書を発表した。これらの文書は、欧州委員会が、GM作物・食品の健康・環境影響をめぐる深刻な疑念にもかかわらず、これらを承認してきたことを明らかにするもので、両団体は、安全性問題が解決されるまではすべてのGM作物・食品の利用と販売を停止するように要求したという。

 とりわけ注目されるのは、リスク管理機関である欧州委員会と科学的リスク評価機関である欧州食品安全機関のリスク評価を不十分と批判していたことも暴露されていることだ。これは、GM作物・食品に対する消費者・市民の不安を解消するためにEUが苦心惨憺して作り上げてきた”セーフティーネット”が未だに不十分なものであることを意味する。行政・科学者と市民のGM作物・食品の受け止め方のギャップ(パーセプション・ギャップ)は縮まるどころか、さらに広がる恐れがある。

 Press release:EU approves genetically modified foods despite serious concerns
 http://www.foeeurope.org/press/2006/joint_18_April_GMOs.htm

 この文書は両団体の法に基づく要求により欧州委員会が提出したものである。それが明らかにする事実に関するこれら団体による包括的報告ととも、ウエブページに発表された。

 http://www.foeeurope.org/biteback/EC_case.htm
 http://www.foeeurope.org/biteback/download/hidden_uncertainties.pdf

 両団体の報道発表によると、これら文書において、欧州委員会は、広範な不確実な分野があり、いくつかの問題は、なおまったく研究されてこなかった論じている。また、次のように言っていることも明らかになったという。

 ・人間の安全性に関して:「GM製品の導入が[同種のものの]ほかのどれよりも人間の健康に影響を与えるかどうかを確かめる方法はまったくない・・・GM製品が安全かどうかを決定するために利用できるユニークで、絶対的で、科学的な基準はない」。

 ・GM作物の栽培について:害虫抵抗性作物(EUで栽培されている唯一のGM作物)は土壌へのすべての影響が知られるまでは栽培されるべきでないというのは”妥当で合法的な立場”である。

 ・環境について:GM作物の環境安全性を支持するために使われる主要な科学的研究は”科学的に欠陥がある」。

 [農業情報研究所注:これらは、EUにおける厳格な科学的安全性評価を正当化するための主張であろう。しかし]

 ・欧州委員会委員会とEFSAとの間には巨大な不一致がある。一例をあげると、欧州委員会は、一定のGMOがミミズに悪影響があることを示す科学的証拠を退けたのちにさらなる調査を要求していないとEFSAを批判している。

 このように現在のリスク評価に疑念を呈しながら、欧州委員会は、

 ・加盟国の支持がないにもかかわらず、過去2年に7つのGM食品の承認を促した。

 ・加盟国に対し、5ヵ国のGM製品禁止の解除の提案に関する二回にわたる投票を要求した(04年11月と05年6月→欧州委、一部加盟国のGM作物栽培禁止の解除に失敗 米国の一層の攻撃に直面)。この提案は二回とも賛成を得られなかったが、皮肉にも、WTOに対し、禁止を正当化する論拠を提出した。

 ・モンサントのGMトウモロコシ31品種をEUでの栽培のために商品化した(2004年9月にモンサントのMON810トウモロコシ17品種をEU共通種子カタログに載せ、2005年12月にさらに14品種を追加した)。

 両団体は、このような欧州委員会のやり方を”ダブル・スタンダード”と非難する。

 地球の友・ヨーロッパの活動家・アドリアン・ベブは、「EUにおけるすべてのGM食品・作物の販売と栽培は、いま明らかになった安全性への深刻な懸念を考え、即時停止されねばならない」。「欧州委員会は、モラトリアムを破り、新たなGM食品をヨーロッパに強制したとき、これらが安全と市民に説明した。いまや、我々は密室に隠れて欧州委員会が完全に反対のことを論じていたことを知った」、このような欧州委員会のダブル・スタンダードは、いかなる犠牲を払っても貿易とビジネスの利益を促進することに専心する欧州委員会により市民の健康と環境保護が危機に曝されていることを明白に示すと言う。

 また、グリーンピースの活動家・クリストフ・ゼンは、公表されたEUのペーパーはGM食品・作物の安全性をめぐる科学的懸念を詳述している、明らかになった事実はヨーロッパのセーフティーネットが機能していないことを示すもので、特に欧州委員会が依拠するEFSAは緊急に、迅速に改革される必要があると言う。

 [このようなセーフティーネットの機能不全はEUだけのもの、GM作物・食品だけにかかわるものでないことに注意しておきたい。日本では、食品安全委員会の設置、リスクコミュニケーション強化の試みにもかかわらず、狂牛病に対する国民の不安が鎮まるどころか、ますます高まっている 。「貿易とビジネスの利益の促進」に気を取られたリスク管理機関は、全体としての国民にとっての便益はリスク=費用を上回る、少数の者が遭遇するリスクを回避しようとすれば多くの者の便益が損なわれ、ときには 救われるかもしれない生命さえ奪われると宣伝、規制緩和に専心する。リスク評価機関は、リスク管理機関のこのような行動を可能にするために、いつになったら確実になるかも分からない不確実な根拠を積み重ねた確率論的リスク評価に専念する。そんなシステムが個々の国民の安全と安心をもたらすはずがない。

 科学者は、ゼロリスクのものはない、消費者はリスクと共存せねばならないと言う。しかし、消費者はゼロリスクだから行動しているのではない。喫煙のリスクの大きさは承知していても、たばこをやめない。飛行機が落ちれば死ぬほかないことは知っていても飛行機に乗る (事故の確率が微小だからというよりも、現代社会はのんびりした遠距離移動を許さないからだ)。なのに、多くの科学者が安全だ、リスクに遭遇する確率は微小だと言うGM食品や牛肉を拒絶する。何故なのか。この問題への答えがないかぎり、人々が望むリスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションは実現しない。それは、不確実な影響評価しかできないからなのか、消費者が確率論的思考に慣れていないからなのか、 リスク管理措置が不適切であったり、厳正に執行されていないからなのか、リスクコミュニケーションが重大ではあるが不確実なリスクを隠したり、軽視するからなのか、主張される便益や必要性に異論があるからなのか(あるいは、このような主張 がビジネスの利害を反映しているだけだからなのか)、それとも、例えば生命倫理・動物福祉などのリスクと直接は関係しない未解決の問題があるからなのか。科学者や行政は、消費者を責める前にこれらの問題に答えねばならない]

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