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EUの農産物食品「地理的表示」制度

農業情報研究所(WAPIC)

03.8.18

 EUは農村開発の重要な手段として、ヨーロッパの優れた食品を「不正」な競争から保護するための農産物・飲食料品「地理的表示」制度を重視してきた。目下のWTO貿易自由化交渉では、その国際的保護をワイン・スピリッツ以外の産品に拡大することを目指している。インド、タイなどの途上国でも、この保護の拡大・強化の動きが強まっている。しかし、米国等がこれに強く反対、交渉の焦点の一つに浮上してきた。農業交渉に関する先頃の米欧妥協案はこの問題まで取り上げる余裕がなかったが、今後の重要な争点となることは間違いない。

 このような状況に鑑み、EUの地理的表示制度とはそもそもいかなるものなのかみておきたい。ヨーロッパには世評の高い優れた食品・飲料が溢れている。ところが、この世評が国境を超えて広まると、同じ名称を詐称し・本物としてまかり通る食品との競争に出会う。このような不公正な競争は生産者を挫くだけでなく、消費者を欺く。このような理由で、EUは、1992年、このような食品・飲料を不正競争から保護するための保護原産地呼称(PDO)・保護地理的表示(PGI)・伝統的特性保証(TSG)の制度を制定した。前二者が広い意味での地理的表示に制度である。PDOは認められたノウ・ハウを使う特定の地理的区域内で生産・加工・調整される飲食料品であることを示し、PGIは生産・加工・調整の少なくとも一つの段階が特定の地理的区域内で行なわれ、かつ高い世評があることを示す。以下、これを定める1992年の「農産物及び飲食料品の地理的表示並びに原産地呼称の保護に関する理事会規則(EC)No 2081/92」により、この制度の概要を紹介しておくことにする。

 1.規則の対象となる産品

 この規則による保護の対象となり得る産品は、EC条約に定められた人間消費用の農産物のほか、ビール、天然ミネラルウォーターと湧水、植物抽出品から製造される飲料、パン・ペストリー・ケーキ・菓子類・ビスケット・その他のベーカー品、天然ガム・樹脂製品に限定された飲食料品、乾草、精油、コルク、コチニ―ル(動物由来の原料品)、観賞用植物・花卉に限定された農産品である。ワインとスピリッツには適用されない。

 2.原産地呼称と地理的表示の定義

 1)原産地呼称は、@特定の地域・場所を原産地とし、Aその品質または特徴が、基本的には、あるいは専ら、固有の自然的・人的要因をもつ特殊な地理的環境及びまた限定された地理的区域内で行なわれる生産・加工・調整から生じる産品であることを示すために使われる地域、特別の場所の名称であり、例外的に国名も許される。

 ただし、原料生産地域が限られ、原料生産のための特別な条件が存在し、これらの条件の遵守を確保するための監査取極めが存在する場合には、原料がより広い地域または別の地域から来る場合にも原産地呼称が認められる場合がある。原料が生きた家畜・肉・乳の場合、この例外は当該原産地呼称が既存の国家保護の対象となっている場合、このような国家制度が存在しないときには伝統的性格や高い世評を立証する場合に認められる。他の原料の使用も特別に定められた別の手続に従って認められることがある。

 2)地理的表示は、@特定の地域、場所、国を原産地とし、Aその特別の性質・世評・その他の特徴が地理的起原、及び限定された地理的区域で行なわれる生産・加工・調整のいずれかに(もちろんこれらの一つだけとは限らない)から生じる産品を示すために使用される。

 3.一般名(総称)となった名称は登録できない

 最初に生産され、販売された場所や地域と関連した名称ももっていても、一般名(generie)となってしまった産品はPDFまたはPGIとして登録できない。一般名となったかどうかは、その名称が生じたEU構成国と消費地域の既存の状況、他の構成国の既存の状況、関連する国家及びEU法などを考慮して決定する。動植物品種の名称と競合し、結果的に製品の真の原産地を消費者に誤解させる恐れがある原産地呼称や地理的表示は登録できない。

 4.保護産品の指定を受けるための基準書

 保護産品としての指定を受けるためには、少なくとも次の諸点に関する明細が必要である。

 1)産品の名称、

 2)原料、場合によっては主要な物理的・化学的・微生物学的・感覚(味覚)的な特徴を含む産品の説明、

 3)地理的区域の定め、

 4)産品が当該地理的区域に起原をもつことの証明、

 5)産品取得の方法の説明、

 6)地理的環境との関連性の詳細、

 7)監査組織の詳細、

 8)特別の表示の詳細、

 など。

 5.手続等        

 規則により資格を認められた集団・自然人・法人がEU構成国に登録を申請、構成国がこれをチェックした後に欧州委員会に送付、これを審査した欧州委員会が最終的に登録の可否を決定する。EU構成国は公的監査機関と承認された民間監査組織、あるいはそのいずれかにより、基準書の遵守を確保しなければならない。

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