英国:改革CAPの下での農業者助成計画

農業情報研究所(WAPIC)

04.2.26

 英国環境食料農村省(DEFRA)は今月12日、改革されたEU共通農業政策(CAP)の下でのイングランドにおける農業助成計画の骨子を発表した(*)。改革が合意された全部門で2005年からデカップル(助成を生産から切り離す)、面積当たり定率の単一農場支払いに向けて進む。助成計画の骨子は次のとおりである。

・2005年時点で活動している農業者だけが農場単位の単一支払いを受け取ることができる。

 個々の農業者はそれぞれに特定された額の支払い受給権を配分され、彼らが農業を営んでいるか、最低限、指定された土地に関して定められた条件(農地を良好な状態に維持、環境・食品安全・動物の保健と福祉に関する法定基準の遵守)を守るかしていれば(クロスコンプライアンス)、それぞれの面積当たりの受給権に対する支払いを毎年請求できる。

 DEFRAは、生産関連助成を前提に行われた過去の活動そのものだけを基準に配分する状況は回避すべきとした[欧州委員会は、当初、単一農場支払いは過去(2000-02年)の実績に基づくとしていたが、最終合意では、地域ごとに定められる定率面積支払いか、これと実績に基づく支払いの混合による支払いの可能性も認められた]。イングランドについては、過去の実績ではなく、規模の大小とは無関係に定率の面積支払いを採用する。

・100%定率の支払いを実施するまでの8年間の移行期間を設ける。

 この移行期間においては、個々の受給権価額は、最初は大部分が過去の実績に基づいて定められ、漸次定率の要素を増やしていく。定率要素は、05年10%、06年15%、07年30%、08年45%、09年60%、10年75%、11年90%、12年100%とする。

・イングランドは著しく条件不利な地域の土地とその他の地域の土地に二分し、異なる定率助成率を適用する。

・EU規則では、直接支払い受給権を最大限10%削減し、環境を保護・改善し、あるいはマーケッテキングや品質を改善する農業方法を助長するための「国家包括予算(national envelope)」に組み込むことを許しているが、イングランドではこれを使用しない。

・クロスコンプライアンスの基準に関しては関係団体とすぐに協議、最小限の官僚統制で有効に実施されるように努める。

 歴史的実績による支払いであれ、定率面積支払いであれ、デカップリングは多くの生産者の撤退につながるであろう。100%歴史的実績に基づくとすれば、直接支払いがなかった果樹・野菜農家や新設農場には受給権が配分されない。これら農家は大変な不利を蒙る。かといって、定率面積支払いにすれば、穀作・牛肉・酪農などの大規模農場の既得権が脅かされる。とくに土地が比較的少ない集約的(工業的)牛飼養者が失うものは大きいだろう(他方、従来は直接援助がなかった野菜農家などには利得がある)。長期の移行期間を設けての定率要素の漸次の導入は、こうした事態をできるだけ回避しようとする苦肉の策だが、それで問題が解消するわけではない。

 歴史的実績に基づく支払いがベターと主張してきたナショナル・ファーマーズ・ユニオン(NFU)は、長期の移行期間が設けられたことや、直接支払いの10%までの削減が放棄されたこと、杓子定規の官僚統制の排除が約束され、クロスコンプライアンスの基準の柔軟化の機会が残されたことを歓迎しつつも、それですべての問題が解消されるわけではないと、デカップルにより引き起こされる問題を和らげる別の手段を追求するという声明を出した(**)。

 他方、有機農業団体・土壌協会は、農業の一層の集約化に歯止めがかかると歓迎している。しかし、果樹・野菜農家が多く、慣行農業に比べて助成が著しく少なかった有機農業者は、歴史的実績に基づく支払いが退けられたことは歓迎しながらも、地域定率支払いを満額受け取るには8年も待たねばならないと批判している。とくにスコットランドとウエールズでは歴史的実績支払いが選択されたから、有機農業者は不利を免れないと言う。また、「国家包括予算」は苦境に陥る可能性が高いサックラーカウ飼養者を救うと期待されるが、その使用が放棄されたことは遺憾と言う(***)。

 フランスはデカップルを2006年から開始、穀物・肉牛・羊・山羊部門で一部生産関連助成を残すとしているから(⇒フランス、06年からCAP改革実施を決定、農民は破滅的影響と反発,04.2.20)、EUでは当面、非常に不均等な助成制度が併存することになる。各国間の競争条件にどのような違いが生じるかも注目される。

 いずれにせよ、CAP改革、デカップリングは、何よりも農業の市場指向を強めようとするものだ。そして、目下の生産者の最大の問題は、スーパー等大規模流通業の市場支配が迫るとどめのない低価格だ。この問題にメスが入れられないかぎり、英国農業の諸問題は解決できないし、多数の生産者の脱落も避けられない。英国政府のこの問題への取り組みは、口先だけで一向に改善される気配がない(参照:イギリス:行動規範、スーパーの取引慣行を変えず、「地球の友」調査,03.3.17、イギリス:「持続可能な農業と食料のための戦略」を発表,02.12.13)。

 わが国はFTAをテコとする「改革」の促進のためと称して、担い手農家へのデカップリング直接支払いを構想している。ここでは、そもそも中山間地の非効率な経営や兼業農家を含む中小農家は消え去るべきだということが前提となっているし、有機農業促進などははじめから念頭にないのだから、ヨーロッパで提起されているような問題へのまともな配慮はありようがない。将来あるべき農業・農村のビジョンそのものがヨーロッパとは異なっている。

*New farm payment scheme 'ambitious and forward-looking' - Beckett,2.12
**
CAP REFORM PAVES THE WAY FOR THE FUTURE OF FARMING,2.12
***
Soil Association welcomes Defra's CAP plans,2.12

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