持続可能な農業を追求するフランス小農民 公正なCAPを求めて断食闘争

農業情報研究所(WAPIC)

06.10.2

 フランスの持続可能な農業を追求するフランス西部・ブルターニュの小農民が、大部分の援助を大規模農業者が受け取るEU共通農業政策(CAP)の公正な適用を求めてハンガーストライキを始めた。

 9月8日、サン・ブリウ(コート・ダムール県)で、8人の農民がCAP援助へのアクセスにおける農業者間の不平等な扱いと持続可能な農業に従事する農業者の冷遇を告発する48時間ハンガーストライキを行った。農民同盟(CP)や自律的農業開発研究センター(CEDAPA)などによる毎週金曜日ごとの断食闘争の呼びかけに応えたものだ。22日にはレンヌ(イル・エ・ヴィレーヌ県)で5人の農民、30日にはヴァンヌ(モルビアン県)で5人の農民と1人の市民がこの闘争に加わった。この運動は、今後ますます広がるだろうという。

 農民同盟や有機農民などは、水や土壌の汚染を最小限に抑えるために持続可能な農法を採用する農民を冷遇するCAPの不公正を常に批判してきた。過去(2000-2002年)の実績に基づき支払額を計算する2003年CAP改革の適用で、この状況は永続することになる。彼らは、政治が公正な援助の要求に応えないために、断食は金曜日ごとに、様々な地域で繰り返されることになるだろうと言う。

 Les exclus des aides PAC se mobilisent : Des militants entament un jeûne en Côtes d’Armor(Confédération paysanne,Communiqué de presse du 8 septembre)
 http://www.confederationpaysanne.fr/article.php3?id_article=947

 ヴァンヌの断食への一参加者は、フランスの援助制度は、「地球と将来の世代を尊重して牧草で家畜を育てる我々の努力を認めない。それは、大量の農薬で穀物を育てる人々を優遇している」と言う。ヴァンヌの運動をコーディネイトする農民同盟員は、「環境問題は別としても、CAPのフランスでの適用は余りに不公正だ。例えば援助額計算の基準年の一つである2002年、モルビアン県の4人の大規模経営者が、援助額の少ない600人の経営者全体と同額の援助を受けていた」と言う。

 Pac - Le mouvement des agriculteurs jeûneurs s'étend encore en Bretagne,Terre-net,9.30.

 9月26日、EU25ヵ国農相は、フィンランドのオウルで、次期議長国・フィンランドが主催するCAPの将来に関する非公式協議を始めた。2013年までのCAP予算は既に決まっているが、2008年にはその適用の”健全性”の再評価が行われねばならないことになっているからだ。一層の自由化を求める英国やデンマークなどと、根本的改革を断固拒否するフランス、イタリアの意見の分裂は深い。しかし、いずれにせよ、農民同盟等が主張する”公正”なCAPには行き着きそうにない。

 農民同盟は、これを機に1経営当たりの援助受け取り額に10万€の上限を課すことを要求しているが、閣僚たちは、 市場志向的で、環境に優しく、消費者の必要性に応える”ヨーロッパ農業モデル”の護持の一般的原則と山地等条件不利地域における農業生産の確保を強調するだけだ。 議長国・フィンランドの提出したバックグランド・ペーパーにも、”公正”、”公平”な援助への言及はまったく見られない。

 Common European values, improving competitiveness and policy simplification find support among the EU Agriculture Ministers,9.26
 http://www.mmm.fi/en/index/ministry/press_releases/060926_oululoppu_en.html
 Background Paper for the Meeting of Ministers of Agriculture,9.25
 

  ただし、既存CAPの護持に固執するフランス政府も何時までも安泰とはいかないかもしれない。農民同盟等の運動は、来年1月に迫った農業会議所選挙も睨んだものだ。農業会議所は政府の農業政策策定に大きな影響力を持つ公的諮問機関だ。その議席の大半は農業者代表で占められれ、現在は前回選挙(2001年)で52%と辛うじて過半数の投票を得た農業経営者連盟(FNSEA)/青年農業者センター(CNJA)の代表者が多数派を構成している。しかし、前回選挙で、とりわけ農民同盟は大きく得票を伸ばし(1995年の20%から26%)、小規模家族農民グループ全体の反主流グループ全体の得票率も43%を超えた。

 フランス伝統の生産(性)至上主義農業・農業政策を支えるFNSEA/CNJAの大規模企業農業グループは、多くの家族農民の破産・農村人口激減・環境破壊をもたらした戦後”農業近代化”路線への抗議で一定の政策変更(山地特別援助、農村人口減らし→維持、環境施策強化など)が余儀なくされた1970年代以来の危機を迎えている。ル・モンド紙は、FNSEA/CNJAが初めて絶対多数を失う可能性もあると言う。

 Des agriculteurs jeûnent contre la PAC,Le Monde,9.25

 あるいは、小規模家族農民の主張がフランス農業政策とCAPの基本方向に影響を与える時代も来るかもしれない。日本では、”担い手”農家以外は農家ではないといった風潮が強まるばかりであろうが。

 なお、欧州委員会は9月21日、2005年の予算執行状況に関する報告を発表したが、CAP改革の実施にもかかわらず、農業補助金は前年より11%増加、全予算の46%を占める485億€に達した。うち100億€(21%)をフランス農業者が受け取っている。

 Key findings of 2005 budget: record execution of payments, benefits for all Member States,9.21

 関連情報
 CAP改革 アイルランド農業所得の94%がEU補助金 小規模農家撤退は不可避,06.9.19
 EU 個別農場への補助金支払上限設定を提案へー英国では王侯貴族が最大の受け取り人,06.6.8
 EU輸出補助金 大部分は大規模アグリビジネスへ 小農民に利益なしー英国のリポート,06.5.22
 フランス EU共通農業政策(CAP)防衛のメモランダム 13ヵ国が支持,03.3.21