麻生首相の英国FT紙投稿 外国農業投資に関する”非拘束的原則”を提案

農業情報研究所(WAPIC)

09.7.7

  日本の麻生太郎首相のフィナンシャル・タイムズ紙への投稿が、8日からイタリアで開かれるG8サミットに際して議論されるべきとする外国農業投資に関する”非拘束的原則”を提案している。首相本人が書いたものではなかろうが、日本政府の方針を示すものであろう。

 Opinion: The world must learn to live and farm sustainably(Taro Aso),FT,7.5
 http://www.ft.com/cms/s/d6e93cf6-6995-11de-bc9f-00144feabdc0,Authorised=false.html?_i_location=http%3A%2F%2Fwww.ft.com%2Fcms%2Fs%2F0%2Fd6e93cf6-6995-11de-bc9f-00144feabdc0.html&_i_referer=
 The World must learn to live and farm food sustainably(Taro Aso),Financial Times,09.7.6,p.9

 投稿は、とりわけ次のような5つの”非拘束的原則が、責任ある投資と持続可能な農地管理を促進するものと信じる”と言う。

 ・国際農業投資は透明で、説明責任を果たせるものでなければならない。投資者は、地方コミュニティを含む主要関係者が適切に知らされるように保証するべきである。協定は開示されるべきである。

 ・投資者は、投資で影響を受ける地方民の権利、特に土地への権利を尊重しなければならない。また、雇用、インフラ、技能と技術の移転の形で地方コミュニティと利益を分け合うように保証すべきである。

 ・投資プロジェクトは、受入国の開発及び環境政策に統合される必要がある。

 ・投資者は、受入国の食料需給状況を考慮せねばならない。外国投資が地方の食料不安を重大化させてはならない。

 ・土地と産品の取引は市場価値を適切に反映すべきである。貿易取り決めはWTOのルールを遵守する。

 同様な提案は、既に国際食料政策研究所(IPFRI)、FAO等国連機関、食料への権利に関する国連特別報告官のオリビエ・デ・シュッター氏も行っている。

 国際食料政策研究所 外国土地投資行動規準 投資相手国からの輸出禁止も,09.4.30
 FAO等 外国農地取得に関する研究を発表 土地収奪、それとも開発機会?,09.5.26
 国連専門家 外国農地取得に関する人権法に基づく原則を提案 G8サミットで採択を,09.6.12

 但し、これらの原則や行動規範の遵守を誰が、どのように監視し、違背を取り締まるのかについては、いかなる提案もない。たとえば、韓国・大宇ロジスティックスとマダガスカル前大統領の間で結ばれた130万ヘクタールの99年無償リース協定は”新植民地主義”的な”土地収奪”の典型として国際的非難を浴び、現地の反発で”中断”に追い込まれたとされるが、大宇ロジスティックスはなお諦めず、21万8000ヘクタールの保持を続けているという現地NGO情報もある。”非拘束的原則が、責任ある投資と持続可能な農地管理を促進するものと信じる”という日本政府もおめでたい。

 マダガスカル新大統領 韓国大宇の食料生産進出計画は棚上げ,09.3.20
 Despite violent protests and coup, Daewoo continues to hold cropland in Madagascar,mongabay.com,09.6.19
 http://news.mongabay.com/2009/0619-daewoo_madagascar.html

 第一、日本もこんな原則を守る用意はあるのだろうか。4月に発足した農林水産省・外務省共催の「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」の会合は、議題に応じて公開・非公開を決めるとされ、「ブラジル・セラードの検証」と「本邦商社からの要望事項を踏まえた支援策の検討」が議題となった5月21日の第2回「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」(幹事会)は非公開だった。早くも”説明責任”を放棄したかのごとくだ。日本が原則を守れるのかどうか、日本国民さえ監視できない。