国際農業投資ラウンドテーブル 「農地争奪」の負の影響を防ぐ行動原則等構築で合意 

農業情報研究所(WAPIC)

09.10.1

 外務省の報道発表によると、9月23日、日本政府主催で開かれたニューヨークでの「責任ある国際農業投資に関するラウンドテーブル(円卓会議)」において、「責任ある国際農業投資を促進するための行動原則、国際的枠組み、グッドプラクティス」に関する各国・機関の代表による活発な議論が行われ、「「責任ある国際農業投資」の考え方への支持が確認されるとともに、行動原則及び国際的枠組みの構築に向けて全ての関係者が協働していくこと等が合意された。また、世銀が提案した原則が、今後の共同作業のベースとなるものとして承認された」ということである。

  責任ある国際農業投資の促進に関する高級実務者会合(概要と評価) 外務省 09年9月30日公表
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/food_security/090926_gh.html

 この会合には、以下の関係国・機関から70名以上が参加したという。

 【政府】豪州、ベラルーシ、ブラジル、ブルガリア、カメルーン、カナダ、中央アフリカ、コモロ、デンマーク、エジプト、フランス、ドイツ、ガーナ、バチカン、インド、インドネシア、イタリア、日本、ルクセンブルク、モルドバ、パキスタン、パプアニューギニア、サントメ・プリンシペ、サウジアラビア、南アフリカ、韓国、スウェーデン、スイス、タンザニア、英国、米国

 【国際機関】世銀、FAO、IFAD、UNCTAD、WFP、EU、OECD、IFPRI(International Food Policy Research Institute)、Global Donor Platform for Rural Development

 【市民社会】IISD(International Institute for Sustainable Development)、International Land Coalition

 【民間セクター】Rabobankインターナショナル、Yaraインターナショナル

 外務省は、この会合結果を「「農地争奪」による負の影響を防ぎ、投資国・投資受入国の双方が裨益する持続的な農業開発の実現に向けた重要な第一歩が踏み出されたと言える」と評価、「 本会合の成果は、10月の世銀年次総会、欧州開発デー、11月のFAO食料サミット、12月のOECD・UNCTAD共催イベント(Global Forum on International Investment)等でフォローアップされ、特に今後6ヶ月間に可能な限りの進展を得るべく関係者が努力を結集することとなっており、早期の具体的成果が期待される」と言う。

 この問題に関する「ラウンドテーブル」は、筆者自身も提唱するところであった。今年7月、当研究所(農業情報研究所)を訪れた外務省担当官に対し、麻生首相の名でフィナンシャル・タイムズ紙で提案された外国農業投資に関する”非拘束的原則”(麻生首相の英国FT紙投稿 外国農業投資に関する”非拘束的原則”を提案,09.07.7)に何らかの実効性を持たせるための一つの方策として提案した。企業、政府、NGOなどあらゆる関係者が対等の立場で寄り集まって作り上げた原則なり、規範なりは、自ら破るわけにはいかないと考えたからである。

 しかし、このラウンドテーブルは今後一層拡充する必要がある。世界中の農業者、企業、非政府組織、専門家、政府、政府間組織を糾合する「持続可能なバイオ燃料に関するラウンドテーブル」(RSB)が、4回の会合とテレビ会議、電子メール、電話を通じての1年間の議論を通じて「持続可能なバイオ燃料生産のためのグローバルな原則および基準:バージョンゼロ」*を作り上げたようにである。そうでなければ、真に有効な原則や規範は作り上げることはできない。

 *http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/earth/energy/document/RSB%20sustanable%20biofuels%20version%200.pdf

 今後の共同作業のベースとして承認された世銀の原則には次のようなものが含まれる。

 @既存の土地及と天然資源に関する権利は認識・尊重されるべきである。

 A投資は食料安全保障を脅かすものではなく、強化するものであるべきである。

 B土地の評価と関連投資の実施過程は透明で、監視され、説明責任が確保されたものであるべきである。

 C著しく影響を被る人々とは協議を行い、合意事項は記録し実行されるべきである。

 D投資事業は経済的に実行可能で、法律を尊重し、業界のベスト・プラクティスを反映し、永続的な共通の価値をもたらすものであるべきである。

 E投資は望ましい社会的・分配的な影響を生むべきであり、脆弱性を増すものであってはならない。

 F環境面の影響は計量化され、負の影響を最小化・緩和して持続可能な資源利用を促進する方策が採られるべきである。

 しかし、具体的プロジェクトがこれらの原則を満たすかどうかを評価し、検証するのは簡単なことではない。そのための的確で詳細な指針(ガイドライン)が作成される必要がある。

 たとえば、世銀の行動原則は、食料安全保障に関して、「契約栽培は国(地方)の食料生産に置き換わることなく産出を改善することができる」として、マリ、インド、タンザニアにおける小土地保有者のヤトロファ栽培を例に挙げる。

 しかし、タンザニアの環境保護団体:タンザニア環境・人権保護及びジェンダー機関(Envirocare Tanzania)などによる最新リポートによると、多国籍企業は、小農民が食料生産に使っている土地も含む水へのアクセスが容易な肥沃な土地をバイオ燃料生産のために取得している。たとえば、小農民との契約栽培などによって広大な面積でヤトロファ栽培を進める欧米企業は、今はキャッサバ、米、トウモロコシを生産している農民に食料作物生産を放棄、代わりにヤトロファを栽培するように勧奨している。

 Rice farmers may be evicted by new biofuel companies,The East African,09.9.28
 http://www.theeastafrican.co.ke/news/-/2558/663988/-/qyclh8z/-/index.html

 契約栽培を含めたヤトロファ栽培の否定的側面については、その他にも多くの報告がある。

 ヤトロファはワンダークロップ?スワジランドの経験 ”地球の友”が新報告,09.5.30
 ガーナ市民団体 バイオ燃料作物生産地規制を要求 ヤトロファが食料安全保障を脅かす,09.5.28
 ザンビア ヤトロファ契約栽培が農村の貧困を助長する恐れ,09.5.7

 多くの企業や現地NGOなども参加した一層大きなラウンドテーブルだけが、的確で公正な指針を保証する。さもないと、これらの「行動原則及び国際的枠組み」は、有害なプロジェクトにも有益なプロジェクトのお墨付きを与える手段にもなりかねない。