農業情報研究所

HOME グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境 ニュースと論調

カナダ:BSE感染牛出生農場からの雄牛5頭がモンタナ農場へ

農業情報研究所(WAPIC)

03.6.6

 6月4日、カナダ当局者が、先月発見された狂牛病(BSE)感染牛が生まれた可能性が非常に高いサスカチェワン州の農場を突き止めると同時に、1997年、この農場から5頭の非去勢雄牛が米国・モンタナ州に輸出されたことも発見したと発表した。ただ、感染牛がこの農場で生まれた可能性は非常に高いが、決定的とはいえないともいう。DNAから父牛を特定はできず、感染牛はブラック・アンガスだが純種ではなく、またIDも、入れ墨もない。

 米国当局は、1996年にサスカチェワンで生まれ、1997年4月28日にモンタナに輸出された5頭の雄牛の行方を調査、農務省はこのモンタナの農場から11頭の雄牛が当地とサウスダコタのストックヤードに販売されたことを明らかにした。カナダから輸出された5頭がこの中に含まれていると想定できるという。これらの牛は既に食肉処理されていることになる。しかし、BSEは飼料を食べることから感染するものだし、米国は1989年以来BSEの監視をしているのに1頭の感染も発見されていないことを理由に、これら5頭がBSEに感染していた可能性は極めて低いと言っている。

 他方、カナダ当局は、5日までに、感染牛が同居した可能性がある18農場の牛の牛のBSE検査を完了、感染は一頭も発見されていないという。これはカナダのBSE防止策が有効であったことを示し、感染は一頭に限られる可能性が高いとして、早くも米国等に輸入再開を働きかけている。CBC Newsは、連邦農相が、米国が近い将来、子牛肉や若い生きた牛の輸入の再開を受け入れるだろうと語ったと報じている。

 日本の亀井農相は5日、ベーカー駐日米国大使を農水省に招き、カナダ由来の牛や牛肉が米国経由で日本に輸出される可能性が排除できないとして、安全な牛、牛肉だけを輸出するように強く求めたという(日本農業新聞、6.6 1面)。同時に、消費者の不安を取り除くために、全頭検査の実施や特定危険部位の除去、トレーサビリティーの導入を勧めたともいう。しかし、米国の現状からすれば、相当の時間をかけても実現されそうもない話である(米国内でBSE感染が発見されれば別であるが)。米国がカナダ牛肉の輸入を再開することになれば、米国牛肉への不安は一層大きくなる。EUは、米国やカナダからの輸入牛肉・牛製品からの特定危険部位除去を義務付けているが、日本はそうした措置も取れないならば、北米産牛肉・製品の識別を確実なものにし、これら輸入品に特定危険部位が含まれないかどうか厳しくチェックすることで自衛するほかないように思われる。

 6月4日、EUは、科学運営委員会による世界中で実施されたBSE地理的リスク評価を発表したが(The assessment of the geographical risk of Bovine Spongiform Encephalopathy carried out worldwide by the European Commission’s Scientific Steering Committee,6.4)、特定危険部位の除去などの要求にかかわるリスクレベルの評価を改めるためには、BSEを発見し・防止し・根絶するためのEUなみの厳しい規制システムの確立とその確実な執行が確保されて後に生まれた牛にBSEが確認されなくなってから数年(平均的潜伏期間とされる5年)が必要としている。しかし、EU並みの厳しい規制を完成した国はどこにもない(日本にはシステムはあっても、どこまで確実に執行されているかは不透明だ。例えば、EUは飼料規制の確実な実施を評価するための指針−欧州委員会:有効な飼料禁止:第三国のためのガイダンス・ノート,01.10.31−を発表しているが、この指針に照らせば、日本は未だ不十分ということにならざるを得ない)。牛肉産業がいかに苦境にあるとしても、カナダの輸出再開の要求は余りに性急で、国際的常識に反する。輸出再開を望むならば、特定危険部位の除去は最低の条件だ。

 関連ニュース
 Beef exports to U.S. may start soon: Ottawa,CBC News,6.4
 Five Montana cows BSE free,CBC News,6.5
 Montana investigates mad cow link,USA Today,6.5
 Canadians Find Likely Birthplace of Cow Infected With BSE,The Washington Post,6.5

 関連情報
 カナダ:ズサンな狂牛病コントロールが露呈、見直しへ,03.5.29
 
カナダで狂牛病(BSE)発生確認,03.5.21