農業情報研究所

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ヨーロッパ:強化に向かう羊のBSEリスク予防措置

農業情報研究所(WAPIC)

2002.3.7

 ヨーロッパでは羊のBSEのリスクに対して一定の予防措置を講じてきたが、昨年8月、英国食品規格庁(FSA)が、新たな研究により1990年代初期の英国の羊のなかにBSEが存在したことが確認されるか、その可能性が否定できなくなる場合があり得ると発表して以来、予防措置の一層の強化が求められてきた。EUは、既に4月からの大幅な検査拡充を決めており、さらに特定危険部位の拡張・トレーサビリティの確立なども検討してきた(EU:欧州議会、EUの安全確保ルールの遵守を要請EU:BSE問題の最近の展開、バーン委員が報告EU:羊と山羊の海綿状脳症(TSE)検査を拡充EU:科学運営委員会(SSC)が羊と山羊のBSEリスクに関する意見を発表) 。その実現がいよいよ近づいたようである。

 一方では、フランス食品安全機関(AFSSA)が、5日、英国政府の発表以来政府から求められていた羊等小反芻動物の伝達性海綿状脳症に関連したリスクの分析とリスク管理体制に関する意見書(avis sur l'analyse des risques liés aux encéphalopathies spongiformes transmissibles dans les filières petits ruminants, les forces et faiblesses du dispositif actuel et les possibilités d'évolution. )を公表した。それは、現在までのところ羊のBSEは存在しないし、この意見を発表した後にもリスクは高まるわけではないとしながらも、それが存在する場合を想定して様々なリスク軽減措置を提言している。

 この意見によれば、乳製品の消費は減らすのが望ましいし、牛と羊について現在予防的に行なわれている特定危険部位の除去は、これに「腸」を含めたとしても(1年前にAFSSAが要求)不十分である。従って、羊の震え病(スクレイピー)の監視・検査の強化、病気抵抗性品種の育成、トレーサビリティ体制の開発などを提言している。

 他方、イギリス政府のBSE諮問委員会(SEAC)は、今月、食品規格庁(FSA)にたいして羊のBSEの新たなリスク管理体制を勧告することになっているが、委員長であるピーター・スミス委員長がメディアに明かしたところによると、羊にBSEが存在するとしても非常に低いレベルにおいてであるが、現段階ではゼロとはいえない。従って予防措置が取られねばならない。The Times紙によると、勧告には、1歳以上の羊を人間の食用にすることの禁止、ソーセージのケーシングに羊の腸を使うことの禁止、子羊肉からのリンパ腺の除去が含まれる。

 リンパ節の除去が義務化されれば、7万の羊農民は破局に追い込まれよう。そうなれば、肉から骨を取り除かねばならず、ブリテン人が食べる年間1億2000万のラム・チョップ(骨付き子羊肉)が消滅することになる。

 牛のBSE、口蹄疫のよるほとんど壊滅的な打撃から漸く立ち直ろうとしている矢先、英国養畜農家は再び危機的状況に追い込まれるかもしれない。年間2億6000万ユーロを輸出するアイルランド羊肉産業からも、先行きを懸念する声があがっている。

 関連記事
 Ovins:le risqué d’ESB anticpe,Liberation,3.6
 BSE curbs may mean end of the lamb chop,The Times,3.6
 Sheepmeat industry concerned over UK BSE scare,The Irish Times,3.6

 なお、BSEに関するEUの現在の「特定危険部位」は次のとおりである。

 牛:12ヵ月以上の牛の脳と眼を含む頭蓋・扁桃・脊髄、すべての年齢の牛の十二指腸から回腸までの腸。

 羊・山羊:12ヵ月以上また歯肉を通して生えた永久門歯のある羊・山羊の脳と眼を含む頭蓋・扁桃・脊髄、全年齢の羊と山羊の脾臓。

 ただし、高発生国(過去1年間に24ヵ月以上の牛100万頭につき100頭以上にBSE確認、現在はイギリス、ポルトガルのみ)については、

 牛:6ヵ月以上の牛の脳・眼・三叉神経節・扁桃を含む頭全体(舌は除く)・胸腺・脾臓・脊髄、全年齢の牛の十二指腸から回腸までの腸、30カ月以上の牛の背根神経節を含む脊椎。 

 羊・山羊:12ヵ月以上また歯肉を通して生えた永久門歯のある羊・山羊の脳と眼を含む頭蓋・扁桃・脊髄、全年齢の羊と山羊の脾臓。

 参考:羊肉・羊関連製品のEU諸国からの日本の輸入量(2000年、2001年)

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