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EU:全年齢の羊・山羊の回腸、牛の扁桃を特定危険部位に、牛の舌の採取方法も変更

農業情報研究所(WAPIC)

03.1.15

 最近の科学的知見に鑑み、EUの伝達性海綿状脳症(TSEs)にかかわる特定危険部位(SRM)関する規則が修正されようとしている。修正案(Draft Commission Regulation of amending AnexesV,] and ]T of Regulation (EC)No 999/2001 of the European Parliament and the Council as regards rapid tests and specified risk materiel,Brussels,C(2002))は今月末の採択が予定されている。これが採択されれば、今年5月1日以降、次のような変化が生じる。

 1.すべての年齢の羊と山羊の回腸がSRMとなる。これは、羊と山羊に、スクレイピーに隠された狂牛病(BSE)が存在するかもしれないリスクを考慮したものである(参照:EU:科学運営委員会(SSC)が羊と山羊のBSEリスクに関する意見を発表)。スクレイピーにおいても、BSEにおいても、異常プリオンは感染早期から腸内、特に回腸に存在する。従って、「予防原則」によるそのフード・チェーンからの排除が提案されたものである。羊の腸はソーセージのケーシングを作るために使われている。

 2.すべての年齢の牛の扁桃がSRMとなる。現在は、英国(UK)とポルトガルで屠殺される6カ月以上の牛、またはその他のEU諸国における12カ月以上の牛の扁桃だけがSRMに指定されている。反芻動物組織の感染性に関する最近のEU科学運営委員会(SSC)の意見(Update of the Opinion on TSE Infectivity distribution in ruminant tissues (Initially adopted by the Scientific Steering Committee at its meeting of 10-11 January 2002 and amended at its meeting of 7-8 November 2002) following the submission of (1) a risk assessment by the German Federal Ministry of Consumer Protection, food and Agriculture and (2) new scientific evidence regarding BSE infectivity distribution in tonsils)は、牛の扁桃は、年齢を問わずBSEのリスクがあるとみなされるべきだとしている。(参照:イギリス食品基準庁、牛の扁桃にBSE感染性発見と発表

 3.牛の舌は、扁桃が残らないように、一定の方法で採取することが義務付けられる。現在のルールでも、舌は扁桃による目に見える汚染があってはならないとされているが、新たなル―ルでは、舌は「舌骨前の舌の後部で斜めに」切り取られねばならず、ナイフは各屠殺動物ごとに洗浄され、消毒されねばならない。
 これは舌そのものには感染性は認められないとする知見を前提としているが、最近、舌自体に感染性があり得るとする研究が発表された(
舌にもBSE感染性の疑い、新研究)。この新研究は今回の提案以後のものであり、EUは、この研究をどう評価するのか、改めて問われることになろう。

 新たなルールが採択されと、EUのSRMのリストは次のようになる。

 (1)12ヵ月以上の牛の脳と眼を含む頭蓋、尾の椎骨・腰椎と胸部椎骨の横突起を除くが背根神経節は含む脊柱、脊髄。全年齢の牛の扁桃、十二指腸から直腸までの腸、腸間膜(脊柱に関して定められた牛の年齢は、規則に定められたBSEモニタリングの結果に基づく年齢群別のBSE発生の統計的確率に照らして、この規則の修正により調整することができる)。

 ただし、脊柱と背根神経節は次の場合には使用が許される。
 (a)国産牛におけるBSE発生がありそうもないか、ありそうもないがないとはいえないと科学的評価が確認したEU構成国で生まれ、育てられ、屠殺された牛、 (b)国産牛におけるBSEが報告されているか、科学的評価が国産牛におけるBSE発生がありそうだと確認したEU構成国において、反芻動物への哺乳動物蛋白質給餌の禁止が有効に執行された日付以後に生まれた牛。
 このような例外措置を受ける国は、(イ)BSE発生がありそうもない構成国内の牛の密度が低い遠隔地域の死亡牛を除き、農場で、または輸送中に死んだが、人間の消費用に屠殺されたのではない30ヵ月以上のすべての牛、(ロ)人間消費用に正常に屠殺された30ヵ月以上のすべての牛、に対して実施される承認されたBSE簡易検査を行うものとする(この例外措置は英国とポルトガルの30ヵ月以上の牛については与えられない)。例外措置を受ける国は、これらの条件を満たす証拠を提出しなければならない。欧州委員会の専門家が、提出された証拠を検証するための事前通告なしのチェックを実行する。

 (2)12ヵ月以上の羊と山羊の脳と眼を含む頭蓋、扁桃、脊髄。すべての年齢の羊と山羊の脾臓、回腸。

 (3)英国、北アイルランド、ポルトガルについては、以上に加え、6ヵ月以上の牛の舌を除き、脳・眼・三叉神経節・扁桃を含む頭全体、胸腺、脾臓、脊髄がSRMとして指定されねばならない。

 なお、骨に附着して残存する肉を骨ごと砕いて篩い分け、採取する機械的回収肉の生産のために牛・羊・山羊の骨を使用してはならない。

 以上ようにSRMを規定したとしても、屠殺、食肉処理の過程でSRM以外の部位がSRMに汚染されては意味がない。そのために、規則(法律)は、SRM除去が許される場所(屠殺場、切り分け工場など)について定め、人間または動物消費用に使われる牛・羊・山羊を気絶させた後にロッド状の道具を頭蓋に入れて中枢神経組織を破壊することの禁止、舌の採取方法、12ヵ月以上の牛・羊・山羊の頭肉の採取方法、SRMの処理(すべてのSRMは適切な染料で着色され、規則に従って完全に廃棄されねばならない)など、汚染防止のための様々な技術的規則も定め、さらにこれらの厳正な実行を検証するための頻繁な公的監視をEU構成国に義務づけている