国内9頭目のBSE確認―問われる「交差汚染」防止策

農業情報研究所(WAPIC)

03.11.5

 4日夜、国内9頭目となるBSEが確認された。先月末に広島県福山市の食肉処理場で解体されたホルスタイン雄(肉牛)、月齢は21ヵ月で、7頭目までと同型のBSEだという。8頭目も雄牛で23ヵ月齢であったが、異常プリオンの型が従来と異なる「非定型型」BSEと判定されていた。

 この月齢で「定型」BSEが確認されたこと自体は驚くに当たらない。英国では20ヵ月の牛が発症後の診断でBSEと確認されている例がある(1992年)。この牛を現在の方法で検査していれば(当時は症状の出た牛の臨床診断の方法しかなかった)、はるかに低い月齢で発見されていたかもしれない。今回の牛は異常プリオンが脳に蓄積し始めたばかりであったようだ。異常プリオンが脳に蓄積し始めてからどれほどで発症するかはわからないが、20ヵ月の英国の牛では今回の牛よりもずっと前から脳への蓄積が始まっていたことだけは確かである。

 ただし、このような若齢でBSEが確認されるのは極めて稀である。もし異常プリオンをなんらかの経路で体外から取り込むことからBSEに感染するという説を前提とすれば(何らかの環境要因が正常プリオンの異常プリオンへの変型をもたらすという説を問題外として片付けるならば)、この若さでのBSE発生は、特別に多量の異常プリオンを取り込んだとしか考えられない()。従って、今回の確認は、異常プリオン汚染が異常に進み、広がっている可能性を示唆する。しかも、8頭目、9頭目は、その後間もなく部分解禁されたとはいえ、BSEの感染源とされる肉骨粉等の輸入、国内産を含めた肉骨粉等及びそれを含む飼料・肥料の製造・販売を停止した後に生まれた牛である。こうした措置にもかかわらず汚染が進み、広がっていることは、これらの措置が有効に機能していないことを意味する。これこそが今回の確認が差し出す最も重要な問題である。

 肉骨粉等禁止が日本よりもはるかに徹底した英国でさえ、その後に生まれた牛にBSEが発生している。その感染源は未だにわからないが、何らかのルートでの牛の飼料への肉骨粉等の混入(輸入植物蛋白質飼料に船や港で肉骨粉が混じったことが原因とする有力研究者(=ワイル・スミス)もいる)と(飼料ではない)環境の汚染が有力とされている。いずれにせよ、肉骨粉等の禁止が実行レベルで完璧に近くても、BSE発生を防ぎきるのは難しいということだ。しかし、日本よりも1年早く(2000年11月)肉骨粉等の全面禁止に踏み切ったフランスでは、24ヵ月以上の牛の全頭検査を行っているにもかかわらず、その後に生まれた牛のBSEは発見されていない。このことは、わが国の肉骨粉等禁止の「実行」がいかにズサンなものであるかを示唆するようだ。ただし、これは、あくまでもBSE感染源は飼料にあるという確証はされていない仮設を前提にするときにのみ言えることだということは、繰り返すようだが断っておく。

 農水省は牛の餌に肉骨粉等が混入した(交差汚染)可能性を想定して感染ルートの調査を進めるようだ。だが、交差汚染防止措置のズサンさのために、この調査は一層難しくなる恐れがある。飼料(とその添加物・薬品など)やその原料の輸入から製造・輸送・貯蔵・使用まで全過程にわたる調査が必要になるであろうが、こんな調査がどこまで実施できるだろうか。

 フランスでは、飼料に肉骨粉を使うことは禁止されているが、ペット・フードや人間の食用とならない観賞魚の飼料への使用はなお認められている。ある日フリスキーの工場に肉骨粉を運んだトラックが次の日には養牛農家にトウモロコシを運ぶということもあり得る。焼却工場に向かう肉骨粉輸送トラックが、次には人間の食料を運ぶこともあり得る。これら様々な物を同時に輸送することは一般的には禁じられたが、トラックが多少なりとも洗浄されれば、交互輸送は認めている。ところが、幾度かの抜き打ち監査により、一部輸送業者が洗浄に関する規則をほとんど守っていないことが確認された。規則はあっても、実際には役立っていないわけだ。昨年、フランス農水省の食料総局(DGAL)は、トラック輸送の際に肉骨粉が混入する危険性について改めて調査に乗り出した。

 わが国の調査はこんなところまで進むのだろうか。仮に調査が進んだとしても、どこまで改善策が取られるのであろうか。

 (注)一部マスコミは、この若さでBSEが発見されたのは、日本で全頭検査が行なわれており、その検査が特に敏感だからだと報じているが、たとえばフランスでも極めて敏感な検査方法とされる「バイオラド」法が使われている(プリオニクスと共に)。そのフランスでは、食用に屠殺される24ヵ月以上の牛の全頭検査が2001年7月24日から始まったが、それ以来、これらの牛の155頭(今年11月4日まで)にBSEが発見された。しかし、その最低月齢は41ヵ月である。
 日本で確認された9頭中の2頭までが2歳未満というのは、検査方法だけでは説明できない「異常」事態なのである。感染(一般的に生後数ヵ月の間に起こるとされている)してから異常プリオンが脳に蓄積し始めるまでの期間を左右する要因はわかっていないようであるが、一般に海綿状脳症の潜伏期間は、感染物質の摂取量の影響を受け、この量が多ければ多いほど、潜伏期間も短くなるとされている。脳に蓄積が始まってから発症までの期間に大きな違いはないはずだから、潜伏期間が短いということは、脳への蓄積が始まるまでの期間が短いということになる。異常に若い牛にBSEが発見されたことは、脳への蓄積が異常に早く始まったということであり、従って異常に多量の感染物質を摂取したということになる。この若さでBSEが確認されたことは、日本の検査体制が誇るべきことなのではなく、異常に多量の感染物質が摂取されるような危険な状況に目を向けねばならないということだ。

 関連情報
 
日本:8頭目のBSE確認、感染性不明な「異常プリオン」!?,03.10.7
 
フランス:トラックでの肉骨粉混入の危険性、改めて調査へ,02.4.5
 
イギリス:研究者、輸入飼料がBSE感染源,2.26

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