カナダ 最近の狂牛病2例の考えられる唯一の感染源は交叉汚染飼料 SRM全面禁止へ

 農業情報研究所(WAPIC)

06.6.26

 カナダ食品検査局(CFIA)が26日、2004年12月に提案した強化された狂牛病(BSE)関連飼料規制(カナダ、すべての動物飼料・肥料からの牛特定危険部位排除を提案,04,12.13)を実施すると発表した。

 カナダでは、1997年8月以来、一定の哺乳動物由来の蛋白質(*)を牛などの反芻動物の飼育に使うことを禁止してきた(1997年フィードバン)。しかし、特定危険部位(SRM)を含む禁止蛋白質も、家禽・豚・その他の非反芻動物の飼料に使うことは許されていた。

 *豚・馬・家禽・魚由来蛋白質やすべての動物由来の乳・血液・ゼラチンは禁止対象外。またレンダリングされた動物の油脂などの非蛋白質動物製品の反芻動物への利用は可。

 強化される飼料規制においては、すべての動物飼料・ペットフード・肥料へのSRMの利用が禁止される。新規制は2007年7月12日から実施される。しかし、小規模と畜場など小規模施設では、周知の徹底や従来の慣行・手続の調整のために12ヵ月の猶予期間が与えられるという。

 CANADA STRENGTHENS FEED CONTROLS,06.6.26
 http://www.inspection.gc.ca/english/corpaffr/newcom/2006/20060626e.shtml

 新規制の目的は、反芻動物以外の動物の飼料や肥料になおSRMが含まれているために高まる反芻動物飼料の”交叉汚染”の可能性を極力減らすことにある。

 FSIAは、従来のフィードバンは強力な飼料規制として国際的に認められたものであり、進行中のサーベイランス検査がカナダの狂牛病発生率が非常に低いことを示唆しているのはこのような飼料規制のためだと、その有効性になお拘っている。

 にもかかわらず、「SRMコントロールのすべての動物飼料への拡張は、飼料の生産・輸送・貯蔵・利用の間に起き得る潜在的汚染に取り組むものだ。ペットフードと肥料からのSRMの排除は、これら製品の誤用を通じての牛その他の狂牛病に感染し得る動物のあり得る暴露に結びついたリスクを軽減する目的を持つ」と言う。

 ここに言うSRMとは、30ヵ月以上の牛の頭蓋、脳、三叉神経節、眼、扁桃、脊髄、脊髄(背根)神経節、と全月齢の回腸遠位部のことである。

 カナダでは、昨年1月、97年フィードバン以後の98年3月生まれの牛の狂牛病感染が発見された。97年フィードバンの有効性が疑われたが、その感染源は特定できなかった(カナダ、最新BSE牛の感染源確認は困難 高まる北米のBSEリスク,05.1.19)。フィードバンから間もない時期の生まれだったことから、フィードバン以前に製造された残存飼料からの感染の可能性も考えられ、交叉汚染による感染かどうかは確認できなかった。

 しかし、今年1月に発見された4例目のケースについては、農場にフィードバン以前の飼料が残存した可能性も排除はできないが、子牛育成飼料が製造または流通過程で汚染された可能性を示唆するという調査結果が発表された(カナダ4例目の狂牛病感染源 交叉汚染飼料の可能性が高いという調査報告,06.3.6)。

 そして4月に発見された2000年4月29日生まれの5例目のケースについての調査は、子牛飼料の供給施設の飼料成分受け入れ「システム」と飼料配布トラックが禁止物質を利用する他の施設と共有されていることを発見、考えれらる唯一の感染源はここで交叉汚染が起きた飼料だと結論している。さらに、この施設は、出生日がこれに非常に近い4例目のケースの出生農場にも飼料を供給していたことから、4例目のケースの感染源も同じと考えられるとした。

 FSIAは、「この調査の発見は、1997年フィードバン規制の順守は専用製造施設の採用を通して大方は達成されたことを示唆する。それにもかかわらず、輸送手段と施設が共同利用されるところに交叉汚染の機会が残っている」と結論する。

 REPORT ON THE INVESTIGATION OF THE FIFTH CASE OF BOVINE SPONGIFORM ENCEPHALOPATHY (BSE) IN CANADA,06.6.16
 http://www.inspection.gc.ca/english/anima/heasan/disemala/bseesb/bccb2006/5investe.shtml

 交叉汚染が現実に起きている可能性を初めて公式に認めたわけだ。延び延びになっていた新規制の実施に踏み切ったのはそのためであろう。新措置が完全に順守されれば、交叉汚染を通じての感染の可能性は大きく減るだろう。しかし、SRMを除く肉骨粉等動物蛋白質の交叉汚染の可能性は依然として残る。ヨーロッパの経験は、哺乳動物由来の動物蛋白質の全面禁止がなければ交叉汚染は防ぎ切れないことを教えている。

 交叉汚染の現実的可能性が認められた以上、SRM完全除去が完全実施される来年7月以後にも、狂牛病の潜伏期間を考えれば、7-8年、さらには10年程度の間は狂牛病発生が続く可能性がある。SRM以外の動物蛋白質による交叉汚染の可能性も考えると、この期間はさらに延びる可能性もある。

 輸入再開を許すことにつながったわが国食品安全委員会のカナダ産牛の狂牛病リスク評価は、こうしたことを既に織り込み済みだったのだろうか。それも気になるところである。リスク評価の見直しの必要があるのかどうか、食品安全委員会は少なくともそれくらいは検討する必要があるのではなかろうか。

 それにしても、米国の動きはどうなっているのだろうか。昨年10月には、食品医薬局が(FDA)が、ペットフードも含むすべての動物飼料への一定の高リスク物質(30ヵ月以上の牛の脳と脊髄、検分で人間消費が許されなかったすべての月齢の牛の脳と脊髄、脳と脊髄が除去されなかった場合の検分で人間消費が許されなかった牛のと体全体、以上の禁止物質由来の0.15%以上の非溶解性不純物を含む牛脂[タロー]、禁止物質に由来する機械的分離肉)の利用を禁止すると提案した(米国FDA 新たなBSE飼料規制を発表 なお抜け穴だらけ カナダの規制とも格差,05.10.5)。この提案へのコメント期間は12月20日までだった。にもかかわらず、なお最終案は発表されていない。

 FSIAの26日の発表を受けて、FDAは同日、提出された800ほどのコメントをなお分析・評価中と発表した。米国が飼料規制強化に踏み切るのはいつのことか分からない。

 FDA Statement on Canadian Rule to Control BSE Risks,06.6.26
 http://www.fda.gov/bbs/topics/NEWS/2006/NEW01397.html