米国 BSE飼料規制強化へ それでもなお抜け穴だらけ

農業情報研究所(WAPIC)

08.4.24(最終改訂:04.4.25 11:45)

 米国食品医薬局(FDA)が4月23日、2005年10月にパブリック・コメントに出したBSE 飼料規制強化案(米国FDA 新たなBSE飼料規制を発表 なお抜け穴だらけ カナダの規制とも格差,05.10.5)を最終ルールとして採用、新ルールに家畜・食肉・レンダリング・飼料産業が適応するための準備期間を経て、23日から1年後に実施すると発表した。

 http://www.fda.gov/bbs/topics/NEWS/2008/NEW01823.html

   この報道発表では、「30ヵ月以上の月齢の牛の脳と脊髄」と、「30ヵ月齢未満でないか、脳と脊髄が除去されなかった場合、検分 されず、人間消費が許されない牛[死亡牛、病牛などを指すのだろう―WAPIC]のと体全体」が動物飼料への利用を禁じられるとされている。

  05年10月の提案で禁止物質に含まれていた「検分されず、また人間消費が許されないすべての月齢の牛の脳と脊髄」、「牛脂[タロー]が0.15%の非溶解性不純物を含む場合、この提案されたルールで禁止された物質に由来するタロー」、「この提案されたルールで禁止された物質に由来する機械的分離肉」については言及し ていないが、25日にFederal Registerに掲載される最終ルールによると、禁止されるのは次の物質ということである。

 ・BSE陽性牛のと体全体

 ・30ヵ月以上の牛の脳と脊髄

 ・30ヵ月以上で、脳と脊髄が除去されていない検分を受けず、また人間消費が認められていない牛のと体全体

 ・BSE陽性牛由来のタロー

 ・0.15%以上の不溶性不純物を含むこのルールで禁止されるその他の物質由来のタロー

 ・このルールで禁止される物質由来の機械的分離肉

 これによると、05年の提案では禁止されることになるはずであった「検分されず、また人間消費が許されないすべての月齢の牛の脳と脊髄」から、検分されず、また人間消費が許されない「30ヵ月齢未満」の牛の脳と脊髄が禁止対象から外れる (従って、これらが除去されていない30ヵ月齢未満の死亡牛等のと体全体も利用可能になる)。食肉処理される牛の大部分が30ヵ月未満であるから、これにより廃棄すべき脳や脊髄は大きく減ることになり、処理しきれない大量のSRMが不適切に処分されて環境汚染を招くから、除去すべきSRMを30ヵ月以上の牛の脳と脊髄に限れと主張していた飼料業界等も受け入れ可能になったということであろう。

、業界、とくにレンダリング業界の反対で立ち往生していた飼料規制強化が俄かに動き出したのは、韓国との合意で、飼料規制を強化すれば30ヵ月齢未満だけでなく、全年齢の牛からの牛肉・牛肉製品が輸出できるという牛肉業界の期待が膨らんだからであろう。 ダウナーカウの扱いについても米国食肉業界は方針を転換、農務省(USDA)に対してダウナーカウの食用と畜の全面禁止を求めている。飼料値上がり等で食肉業界を襲っている不振から抜け出すには、安全性強化で輸出を伸ばすほかないと思い始めたふしがある。

 NMA: Associations Petition To Exclude Non-Ambulatory Cattle,Cattle Network,08.4.23
 http://www.cattlenetwork.com/Beef_Cattle_Hot_Topics_Content.asp?ContentID=216013

 これは日本の輸入条件緩和に向けての強力な圧力にもなる。しかし、最終ルールは、眼・扁桃・回腸遠位部など一部特定危険部位は禁止対象とならず、血液・血液製品などの利用も許され、設備・施設の専用化も義務化され ず、交差汚染の可能性が大きく残る05年10月の提案よりもさらに後退、抜け穴は一層大きくなった。

 そのうえ、このような飼料規制の有効性の確認は、実施から数年(BSEの潜伏期間)後のことになり、サーベイランスが杜撰であれば、この確認もできないことになる。韓国や日本が、この飼料規制強化で月齢制限撤廃を受け入れるとすれば、安全性軽視の政治経済的妥協の謗りを免れないだろう。

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