バイオ燃料 食料との衝突許さずーマレーシア首相 食料安全保障との両立をーG8 

農業情報研究所(WAPIC)

08.7.9

  マレーシアのアブドゥラ首相が、世界の食料不足が深刻化し、食料価格が高騰しているから、世界中で広がる農地のバイオ燃料原料生産用地への転換を停止するように要請した。クアラルンプールで7月8日に開かれた第6回D8(8イスラム途上国グループ)サミットの開会に当たり、世界は、エネルギー安全保障への熱中が食料の生産と衝突することを許してはならないと演説したということだ。

 食料価格高騰で、首相は農業・食料生産の重要性に目覚めたらしい。彼は、大部分の国が経済の工業化を優先してきたことが農業軽視につながった、農業への投資の低迷が農業の発展を遅らせ、食料の供給不足と現在の食料危機を招いたと言う。

 しかし、彼によれば、石油価格高騰が引き起こす社会・経済・政治不安も食料危機と同様の重大問題だ。食料増産だけでなく、石油価格安定化に向けた国際的取り組みの重要性を訴えるとともに、D8が再生可能エネルギー分野におけるプロジェクトを優先するように要請する。

 Stop Converting Arable Land For Bio-Fuels As It Will Worsen Food Crisis, Says PM,Bernama,7.8
 http://www.bernama.com/bernama/v3/news_business.php?id=344670

 バイオ燃料原料用地への農地転換をやめよという彼の要請は、バイオ燃料生産拡大を諦めよということではない。この演説へのコメントを求められたサミット閉会後の記者会見では、(バイオディーゼル原料となる)パームオイルの生産は、オイルパーム面積拡大ではなく、収量拡大によって増やすと語った。面積を拡大せずともパームオイル生産量は30%増やすことができる、50%増える可能性もあるという。

 Malaysia Will Not Increase Oil Palm Acreage, Pledges Abdullah,Bernama,7.8
 http://www.bernama.com/bernama/v3/news_business.php?id=344861

 首相のこのような意向にもかかわらず、パームオイルやバイオ燃料の増産が食料生産やその持続可能性と”衝突しない”と保証されるわけではない。

 マレーシア連邦土地開発庁(Felda)は、国内での新たなプランテーション開拓を停止するという政府指令を受け、オイルパーム・プランテーション事業の海外への拡大に集中する。既に、インドネシアのカリマンタンとアチェ、パプア・ニューギニア、ブラジルで土地を取得した。ブラジルでは、ブラジル企業との合弁で、アマゾン河に近いマナウスとテフェでの10万fのオイルパーム・プランテーション開拓プロジェクトに乗り出す。

 Felda to expand plantation ops overseas,The Star,6.26
 http://thestar.com.my/news/story.asp?file=/2008/6/26/nation/21660988&sec=nation

 
Felda lands big oil palm plantation project in Brazil,The Star,7.8
  http://thestar.com.my/news/story.asp?file=/2008/7/8/nation/21761494&sec=nation

  広大な既存農地、恐らくは熱帯雨林が犠牲になるだろう。既存農地のオイルパーム・プランテーションへの転換が食料生産と直接衝突するのは明らかだが、熱帯雨林破壊の間接影響はそれを上回るだろう。

 G8サミットも、「バイオ燃料の持続可能な生産及び使用のための政策が食料安全保障と両立するものであることを確保し、非食用植物や非可食バイオマスから生産される持続可能な第二世代バイオ燃料の開発及び商業化に向けた取組を加速・・・」なる「世界の食料安全保障に関するG8首脳声明」を出した。しかし、「食料安全保障と両立する」バイオ燃料などどこにあるのだろう。

 最近は食料作物が作れない乾燥荒地でも育つとされる有毒非食用植物・ヤトロファ[最近は”ジャトロファ”と呼ばれることが多い]の導入が進んでいるが、これもアフリカやアジアでトウモロコシや米などの基礎食料作物生産用地を蚕食しつつある。乾燥荒地で確実な、かつ採算が取れる収穫が得られる保証はなく、これも当然の動きだ。農地以外の土地での大規模栽培も、その間接影響は測り知れない。

 侵食続ける燃料農場、読売新聞、08,7.2
 http://www.yomiuri.co.jp/eco/kankyo/20080703-OYT8T00364.htm

 フィリピン・ミンダナオで水田にヤトロファ バイオ燃料は貧しい農民を救うのか,07.12.12
 ナミビアでヤトロファ・プランテーション計画 食料に影響なしというが農民のリスクは?,07.12.10
 中国のヤトロファ・バイオディーゼル大規模プロジェクト 生物多様性に脅威と専門家,08.3.19
 中国・インドのバイオ燃料生産 食料作物栽培のための水の不足を深刻化 国際水管理研究所,07.11.13

 化学肥料以前、作物が土地から吸収した養分は堆肥や人・家畜の糞尿としてすべて土地に戻され、土地の生産力が再生産されてきた。化石肥料成分が枯渇に向かい、このような土地→人・家畜→土地の循環が不可欠になりつつあるときに、作物の非食用部分は”第二世代バイオ燃料”として燃やしてしまえと言う。 有機物を失った土壌は砂となり、風に飛ばされ、水に流され、砂漠化に向かう。これも、長期的に見れば、決して食料安全保障と両立しない。

 G8はアフリカの主要作物の生産量を5年から10年で倍増すると宣言したが、第二世代バイオ燃料にお墨付きを与えたことで、アフリカヤトロファ・ビジネスと砂漠化に拍車がかかる。