EU:ソフトドリンクと豚飼料に禁止ホルモン

農業情報研究所(WAPIC)

02.7.16

 先月、EUは、除草剤・ニトロフェンが有機農業用の家畜飼料中に発見されるというドイツに始まったスキャンダル(ドイツ:有機畜産飼料に禁止除草剤,02.6.3)に大きく揺れたが、今度はソフトドリンクや豚の飼料に禁止ホルモンが含まれていることが発覚、国際的刑事事件にまで発展している。

 問題のホルモンはメドロキシプロゲステロン・ アセテート(MPA)、避妊用ピルや閉経後の婦人のホルモン交換治療、乳癌等の癌治療にも用いられている。また、米国等では、家畜の成長を促進するために飼料に添加する形で動物用薬品として使われている。しかし、長期的に使用を続けると不妊を引き起こすと疑われており、脳血栓・心筋梗塞・肺塞栓のような動・静脈血栓症の副作用も指摘されている。EUでは、1988年以来、これを含むホルモンを家畜の成長促進のために使うことを禁じており、最近も、この禁止の科学的根拠を再確認する科学委員会の意見が出たばかりである(EU:科学委員会、ホルモン牛肉の危険性を再確認,02.4.24)。

 ところが、先月、オランダの355の農場でMPAに汚染された飼料で豚が飼育されていることが発見され、この飼料がドイツやベルギーに運ばれ、汚染飼料で育てられた動物やその肉がドイツ・ベルギー・フランス・イタリア・スペインに送られているらしいことも判明した。また、今月9日には、ベルギーの食品安全庁が二つのソフトドリンクのメーカーで、この禁止ホルモンの痕跡を発見した。ホルモンは、ベルギーに本拠を置く既に破産した砂糖廃棄物加工業者・Biolandにより販売されたグルコース・シロップに含まれていたらしく、もともとはアイルランドからの医療廃棄物の船荷に混じっていたと考えられている。このシロップはオランダとドイツの食品企業にも供給されており、その他のヨーロッパのビール工場にも供給されていた可能性がある。

 ベルギー当局は、ホルモンが故意にシロップに混ぜられたのかどうか調べようとしている。Biolandのオーナーの二人の兄弟のうちの一人がベルギーで逮捕され、捜査はなお続いている。

 オランダ当局は、MPAが豚の重量を増やすと考えられていることから、農民と飼料メーカーが豚の飼料に添加したのではないかと疑っている。

 EUは、10日、構成国代表者で構成される「フード・チェーン及び動物保健常設委員会」はオランダ・ベルギー・アイルランドの当局者から事情を聴取、欧州委員会は次のように結論した(Food Chain Committee Discussion on MPA-hormones in feed and food products,7.10)。

 ・オランダは、事件に関係した可能性があるすべての農場と飼料メーカーを閉鎖し、これらの農場とメーカーのリストを即刻広報しなければならない。また、すべての検査結果を欧州委員会と構成国に即刻伝えねばならない。

 ・すべての構成国は、関係飼料と食品の追跡、関係施設の閉鎖、関係した可能性のある製品の検査を続ける。

 ・すべての構成国は、国内企業がBiolandの顧客であったかどうか検証する。

 ・すべての構成国は、ネットワークのすべてのメンバーが利用可能な全情報への即時アクセスできるように、食品及び飼料に関する欧州迅速警報システム(EU:新たな食品安全法が発効,02.2.23)を通して新たな情報を送りつづける。

 ・アイルランドとベルギーはそれぞれの調査を続ける。

 ・すべての構成国は、領土内の医療廃棄物が適正に処理されているかどうか検証する。

 EUでは、何故このようなスキャンダルが続くのか。Bioland社のグルコース・シロップは、原料に小麦を使うのに併せ、砂糖製品廃棄物残滓を使うために、ライバル企業の製品よりも30%安価であったという(Banned hormone found in soft drink,BBCNews,7.11)。豚を早く太らせるために、故意にMPAを飼料に添加した疑いもある。食品安全が競争により強制される経済効率に打ち勝つ困難を示しているのであろうか。影響のEU諸国への広範な広がりは、グローバル化(この場合は欧州化)に随伴する問題の深刻さを考えさせる。EUの迅速で、厳格な対応は、このような時代の食品安全確保体制の成熟を示す。しかし、それでも、スキャンダルの発生そのものは防ぎきれない。食の安全の確保のためには、何よりも、スキャンダル発生の源を断たねばならない。そのためには、「フード・チェーン」にかかわるすべての業界が、効率を優先して安全性を犠牲にする慣行を改めねばならないであろう。しかし、そのコストは高い。この点に関しては、EUの政策も、基本的には手つかずである。欧州委員会は、環境と食品安全を最優先する農業・食料政策を掲げたが、その実現への道はなお遠い。

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 Byrne demands 'poison pork' explanation ,The Irish Independent,7.9