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ホルモン牛肉禁止でEUを提訴の企業を支持:EU法務官

農業情報研究所WAPIC)

03.5.22

 5月15日、EUの欧州裁判所法務官が、ホルモン牛肉の禁止に対するWTOの裁定の実施を怠ったために損害を蒙ったとEUを訴えていたフランス食肉企業二社を支持する意見を出した(Opinion of the Advocate General in cases C-93/02 P and C-94/02 P Biret International and others / Council )。これは、WTO法は欧州裁判所を通しては執行できないとする従来の見解を覆すものである。法務官の意見は裁判所の80%の最終判決に反映されており、このケースでもそうなると、WTOルール違反とする米国の提訴で敗訴しながらなお禁止を解いてないホルモン牛肉の輸入禁止(EU:科学委員会、ホルモン牛肉の危険性を再確認,02.4.24)について決断を迫られることになる。

 フランス企業の欧州裁判所への提訴は、1998年、WTO紛争処理で、EUの長期にわたるホルモン牛肉禁止がWTOルールに違反するとされたことを受けてなされたものである。当初、企業は、欧州裁判所第一審に、EU閣僚理事会の補償を求めて提訴した。第一審は、WTO法はEUの法廷には適用できないと訴えを退けた。しかし、今回の法務官の意見は、経済活動の自由への基本的権利を認め、一審の判定は「市民の自由への権利を不法に制限する」ものと結論している。このケースでは、EUがWTOの裁定を実施する期限を守らなかったために、WTOルールは適用できるという。

 これは、ホルモン牛肉に限らず、貿易紛争にかかわるEUの今後の行動を大きく制約する可能性がある。遺伝子組み換え作物については、既に米国に訴えられているし(米国、GMO規制でEUをWTO提訴、欧州委は断固反論,03.5.14)、史上最大の環境立法と評される化学物質規制規則案(EU:欧州委員会、化学物質規制制度の抜本的改革を提案,03.5.8)への米国企業の不満も高まっている。「予防原則」に基づくEUの諸規制全般に重大な影響が及ぶ可能性がある。