トランプ次期米大統領 就任初日にTPP脱退を通知 安倍首相のTPP固執は最悪の結果につながる恐れ

農業情報研究所グローバリゼーション二国間 関係・地域協力>ハイライト20161123

  トランプ米国次期大統領が21日のビデオ演説で、来年120日の大統領就任初日にTPP)から脱退する意向を通知する」と述べた。 

 トランプ次期大統領「就任初日にTPP脱退通知」 日本経済新聞 16.11.22

 前日、ペルー・リマで開かれたTPP調印12ヵ国首脳会合は、各国が国内承認手続きを進める決意を確認した。安倍首相や一部TPP署名国は、選挙ではTPP離脱を叫んでいたトランプ氏もいざ大統領となれば態度は豹変するかもしれないと淡い期待を抱いてきた。日本政府・与党は、そのとき米国が主張するかもしれないTPP再交渉は受け入れないといいう意思を示すために、TPP承認案の早々の国会通過を目指している。しかし、一部のTTP署名国には、トランプ氏の勝利を見て米国抜きのTPP発効や、中国主導の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)やアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の模索に動き始めた。そういう動きを一先ず封印、トランプ氏の翻意を待とう、首脳会合における「確認」はそういう淡い期待の表れであるともいえる。

 TPP漂流、不安消えず=「米国抜き」「再交渉」も-12カ国首脳会合 時事 16.11.20

 リマでは同じ日、前にも書いたように(貿易自由化による「包摂的成長」で「保護主義」に対抗 APEC首脳宣言の愚)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会合も開かれた。その首脳宣言は「あらゆる形態の保護主義に対抗する責務を再確認する」と謳った。宣言は冒頭で、「不平等や不均等な経済成長がグローバリゼーションへの疑念を生み、保護主義の台頭につながっている」と指摘、保護主義台頭を抑えるために「貿易や投資、開かれた市場の恩恵を行き渡らせるため、社会のあらゆる分野に働き掛ける必要がある」と経済格差の解消も訴えた。TPPを含む貿易自由化が米国の製造業雇用に与える悪影響を何よりも恐れるトランプ氏を懐柔いてその翻意を促そうとしたものだ。

 これを主導したのも安倍首相、「自由貿易への反対は、自由貿易に背を向けることではなく、包摂的な成長(貿易・投資の恩恵をすべての人に行きわたらせる経済成長)をもたらすような経済政策によって乗り越えるべきだ」、TPPだけが「自由で公正なルールに基づく経済圏を創出する」とぶち上げた。米国主導のTPPに見切りをつけたいくつかのTPP署名国の動きを食い止めようとしたのである。

 TPP漂流、不安消えず=「米国抜き」「再交渉」も-12カ国首脳会合 時事 16.11.20

 ところがその翌日、こうした期待や努力をあざ笑うかのようなトランプ氏のTビデオ演説だ。これで米国主導のTPP離れが加速するのは間違いない。その中でただ一人、安倍首相のみが、TPPは米国抜きでは意味がない。根本的な利益のバランスが崩れる」とTPPにこだわっている。ここにいたってもなお、トランプ氏の翻意に期待している。

 首相「米抜きTPP、意味ない」 トランプ氏翻意期待 日本経済新聞 16.11.22

 TPP、日本手詰まり=安倍首相訪米も翻意かなわず 時事 16.11.22

 Trump just announced he’d abandon the TPP on day one. This is what happens next,Washington Post,16.11.22  

 メキシコ経済相「2国間協定も選択肢」 TPP協議 日本経済新聞 16.11.23

 これも前に述べたように、TPPが米国にもたらす経済的利益はゼロにも等しい。世銀報告によれば、TPPの米国GDP押し上げ効果は最大でも年0.04%にすぎない(安倍首相 「雇用創出」と「中国脅威」の殺し文句でトランプ説得 TPP離脱翻意を促す)。その上、これも前に述べたように、自由貿易(競争)と「包摂的な成長」の両立は非現実的だ(貿易自由化による「包摂的成長」で「保護主義」に対抗 APEC首脳宣言の愚)。

 比較優位の経済原則は、自由貿易で日本が自動車産業に特化、米国が農業に特化して資源配分が最適化されると生産性が上昇、GDPは大きく増える と教える。しかし、この経済的利益が実現するためには、米国の自動産業労働者はすべて農業に吸収されねばならず、 日本の農業者はすべて自動車産業に吸収されねばならない。そんなことが現実的だろうか。現実には大量の失業が発生するだろう。つまり、「包摂的な成長」は実現しないということだ。

 トランプ氏もそんなことはご存知だ。だから、TPPの「代わりに米国へ雇用や産業を取り戻す公正な二国間貿易協定を交渉する」と言うのである。安倍首相の「TPPは米国抜きでは意味がない。根本的な利益のバランスが崩れる」という発言は、利益のバランスが一層崩れた日米自由貿易協定(FTA)の呼び水となるだろう。米国抜きでTPPを発効させる、あるいは中国主導の協定を実現する、そうすることで米国の参加を引き寄せる、「利益のバランス」を保つためにはその方がはるかに有益だろう。

 ニュージーランドもオーストラリアも、中国主導のFTAの推進を支持する可能性を示唆している。ニュージーランドはリマでのAPEC首脳会議に際し、2008年に発効した西側諸国初の対中国貿易協定の改訂(グレードアップ)交渉を2017年に始めると発表した。同国キー首相は、米国はいつまでも孤立しているわけにはいかない、最速の成長を続けるアジア市場にどうアクセスするか、いつかは考えなければならないと言っている。

 Export groups welcome China trade pact progress,New Zealand Herald,16.11.21

 TPP ‘has no meaning’ without US, says Shinzo Abe,FT.com,16.11.22

   A Trade War Against China Might Be a Fight Trump Couldn’t Win,The New York Times,16.11.23 

   米不在 TPP漂流 トランプ氏が離脱明言 中国対抗、主軸失う 日本経済新聞 16.11.23 

   US TPP pullout boon for RCEP talks,Bangkok Post,16.11.23 

   コラム:TPP米離脱で中国が負うアジア自由貿易推進の使命 ロイター 16.11.23