韓国、チリとの自由貿易協定(FTA)批准が危機に

農業情報研究所(WAPIC)

03.12.9

 今年中に批准されるはずであった韓国初の自由貿易協定(FTA)、チリとの協定が破産の危機に直面している。韓国通常国会会期は今日切れるが、農民その他の組織の反発を恐れて、主要政党が批准をためらっている。8日には国会議長・朴寛用が農業委員会・外交委員会委員長と話し合ったが、採決に持ち込むことに合意は得られず、反対派との協議をさらに続けることになった。

 議員たちは、来年4月の選挙を控え、農民等の票を失うことを恐れている。The Korea Times紙(Assembly Balks at Cealing With S.Korea-Chile FTA,12.8)によれば、農水産委員会委員長・李 良煕は、大部分は農村地域から選出された委員の多くがこの問題を取り上げることをためらっており、中には議論を最低でも1年か2年先送りすることをほのめかす者もいると語ったという。彼は決定のカギを握る多数派野党・ハンナラ党に所属する。

 議会消息筋は農民組織の譲歩が引き出せないかぎり、最終決定はできないと見ている。農林省は、農民の譲歩を引き出すために、FTAで影響を受ける農家を助ける援助を8千億ウォン(約800億円)から1兆2千ウォンに増やした。同省は、財政状態を考え、これ以上の援助は不可能だとしている。

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 この韓国事態の教訓は、FTAという限定されたものでも、国境を取り払うことは生易しいことではないということだ。それは、余ほどの政治的動機に駆られるか(例えば、欧州統合の先駆けとなった欧州石炭鉄鋼共同体が「戦乱のヨーロッパ」に終止符を打つという差し迫った課題の解決を動機としていたように)、有無を言わせぬ超大国の経済・政治・軍事力がなければ難しい。まして、発展段階・制度・文化の異なる国の間では。

 経済的利益だけを追い求めるFTAへの狂奔は、一時的な熱病に終わるだろう。FTAが考えられているような経済的成果を必ずしも上げていないことはWTO等の分析が示している。なによりも、それは貿易転換効果で域外国を苦しめ、世界に不和をもたらす。そもそもFTAはガットが「例外的」に認めたものである。そのことをすっかり忘れ、FTA締結を正義のごとくに喧伝する政治家・官僚・学者・財界人が溢れていること、これをとがめるマスコミさえ皆無であること、このこと自体が、知識・道徳のレベルが最低に落ち込んでいる証左だと言ってよい。「EECは関税を撤廃する一方で、自由化で経営が苦しくなたった農家に所得の一部を補う『直接支払い』制度を広げた」(朝日新聞12月8日、編集委員”FTAを機に「開放的保護政策」へ、農政はEU学び転換を”、ウルグアイ・ラウンドで関税化を迫られて所得補償直接支払いを導入した92年マクシャリー改革のことを言っているのではない。CAP創設のときのことをこう言っているのだ)などという「基礎知識」をまったく欠いた世界の恥さらしのような論説が大新聞に堂々と掲げられる。この国の将来は暗い。

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