日ータイFTA 基本合意の報 原産地規則で日本が譲歩?
(Thai-Japan FTA agreed in principle)

農業情報研究所(WAPIC)

05.8.1

 日本経済新聞(インターネット版)によると、日本とタイの自由貿易協定(FTA)が基本合意に達した。今日午前中の中川昭一経済産業相とソムキット副首相らとの協議で基本合意、8月中にもタクシン首相が来日し小泉純一郎首相と発効時期なども含めて最終合意する見通しという。最後の争点になっていた日本からタイへの完成自動車の輸出について、排気量3000cc超の大型車の関税を現在の80%から2010年までに60%へ引き下げるほか、09年にその他の排気量の完成車も含め扱いを再協議することで折り合った(日・タイFTA基本合意、完成車関税は3000cc超のみ下げ、NIKKEI NET、8.1、14:19;http://www.nikkei.co.jp/news/main/20050801AT1F0100B01082005.html)。

 タイからの情報によると、タイのピサン交渉団長が、昨夜9時に終えた中川日本経済産業相との密室交渉の後に、日ータイFTAが99%合意に達した発表している。3000cc以上の日本車に対するタイの市場開放の問題を除き、重要問題、とくに農水産物の原産地規則で双方が柔軟な姿勢を示したからだという(THAI-JAPAN FTA: Luxury cars now the only obstacle,The nation,8.1)。

 原産地規則で日本がどこまで譲歩するかが交渉の成否の鍵を握ると前に述べたが(日ータイFTA交渉はなお難航 農水産品に関する島村農相の譲歩は促進材料にならない,05.7.29)、日本がこれに関して一定の譲歩をしたということだ。日本は、タイの食品については現地調達率が90%以上でなければならない、海産食品については乗り組み員の75%以上がタイ人である漁船からの産品でなければならないなどと要求していた。譲歩の程度はなお不明だが、ピサン団長は、鉄鋼については満足、農産品に関するルール、あるいは原産地規則については、タイ農民の利益になる柔軟な取極めの詳細を事務レベルでつめるが、タイの利益になることを確信すると語っていた。

 基本合意に達したとはいえ、報道のとおりならば、大型車以外の完成車に関する決着は09年まで先延ばしされたし、農水産品の原産地規則についても最終的に決着したということではなさそうだ。とりあえず、7月合意を目指した交渉が無様な結果に終わらないように体裁をつくろったというところであろうか。今後問題が蒸し返される可能性が完全に消えたと言えるのだろうか。

 なお、毎日新聞(インターネット版)によると、「投資・サービスは現在、タイとFTA交渉中の米国並みの最恵国待遇を保証する」という(FTA:日本とタイ、基本合意に達する;http://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20050801k0000e020063000c.html)。 難問の解決は米国に委ねてしまったわけだ。しかし、タイと米国のFTA交渉には、タイ国内から様々な疑念が提起されている(タイ国内にFTAへの深刻な不安 議会委員会は国民投票を要求,05.4.12)。交渉の成り行きによっては、このような日・タイ合意も反故になりかねない不安定さがあることにも注意すべきだろう。 医薬品特許やバイオピラシーに関連してタイ国民の関心がとりわけ強い知的財産権については何も明らかにされていないが、これも米国にならうということだとすれば、今後、問題は一層大きくなる (タイ:米国とのFTAは主権を侵す、国民の合意を得よ―学界とNGO,03.10.14;タイ、高まるFTA批判、GM製品市場開放等FTAは国家主権を脅かす,03.3.20)。