農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力ニュース:2010年12月13日

豪政府独立機関 FTA神話を打ち砕く 米国等との既存協定に利益なし 政府は貿易政策見直しを

  オーストラリア生産性委員会”(Productivity Commission*が12月13日、オーストラリアが今までに結んだ自由貿易協定(FTA)は考えられているような利益をまったくもたらしておらず、却って多大なコストを生み出しているという1年にわたる調査の結果を報告した。

 *オーストラリア人の経済・社会・環境福祉に関する政府の独立研究諮問機関。

 この研究報告は、多くの地域貿易協定において、「加盟国間の貿易が拡大したとか、域外よりも急速に拡大したという経験的証拠はないとしている」と分析した2003年8月のWTO報告(WTO世界貿易報告、地域貿易協定に懸念,03.8.22)の結論を再確認するものだろう。報告は貿易政策と地域貿易協定締結プロセスの全面的見直しを勧告している。これは、二国間または地域貿易協定は必ずや貿易拡大と経済成長に寄与するという神話に取りつかれ、にわかに地域貿易協定に前のめりになった日本政府(日 あ本に重症FTA(EPA)フィーバー 戸別所得補償も農山漁村再生ではなくFTA推進のため,10.9.29)への耳をつんざくような警鐘 (それでも、権力闘争に明け暮れる政府・与党の耳には届かないだろうが)でもある。

 報告によると、オーストラリアが過去に結んだ6つのFTA(対ニュージーランド、シンガポール、タイ、米国、チリ、ASEAN)が商業的利益 (commercial benefits)を生み出したことを示す証拠はほとんどない。協定外の国から輸入される製品で作られた商品の販売を困難にする複雑な規則(原産地規則)により、貿易が実際に減少している 場合さえ見られる。これら原産地規則 を守るための高価な域内産部品への切り替えや、規則を満たすことを証明するための膨大なペーパーワークで生じる追加コストが、関税撤廃の利益を超えてしまうことも起きる。 これら原産地規則が課す追加コストは、各輸出船荷の価額の8%にのぼり得る。
 

 その他、米豪FTAに盛り込まれた著作権条項や製薬企業の権利拡大がオーストラリアに多大な追加コストを生み出したことも指摘されている。

 オーストラリアは現在、中国、マレーシア、日本、インドネシア、湾岸協力会議(GCC)、太平洋諸島フォーラムとのFTAを交渉しているが、報告は、さらなるFTAに合意する前に、貿易円滑化、投資保護、基準相互認証など、より低コストで同等、あるいは一層大きな利益をあげることができる他のオプション がないか考えるべきだと勧告している。

 Bilateral and Regional Trade Agreements:http://www.pc.gov.au/projects/study/trade-agreements/report(2010.12.13)

 日豪FTAに対する日本政府の積極的姿勢を歓迎したエマーソン貿易相も(前原外相 全品目自由化を基本に来年早期に日豪EPA交渉再開)、膝元からのこの報告を歓迎、将来のオーストラリア貿易政策のフレームワークの見直しを告げている。

 Productivity Commission report on bilateral and regional trade agreements:http://trademinister.gov.au/releases/2010/ce_mr_101213.html(2010.12.13)

 [日本のマスコミが海老蔵、小沢一郎をめぐる政府・与党のゴタゴタははいやと言うほど伝えても、こんなニューズを伝えることありそうにない。 この報告の意味さえ理解できないかもしれない。神話は無傷でまかり通るのだろう]