農業情報研究所グローバリゼーション二国間 関係・地域協力2017 年4月21

EPAの関税減免措置 輸出企業の半数以上が利用せず 原産地規則が貿易創出・拡大を妨げる

 今日付けの日本経済新聞によると、日本が自由貿易協定(FTA、経済連携協定=EPA)を締結している相手国に製品を輸出する企業のうち、関税の減免措置を利用している企業が45%にとどまることが日本貿易振興機構(ジェトロ)の調べで分かった。

 調査は昨年11月から今年1月にかけて実施し、2995社が回答。大企業で57%、中小企業で41%がFTAを利用しているとした。輸出先の国別では、チリが53%と最も高く、タイ(47%)、スイス(44%)と続いた。2015年に発効したオーストラリアは25%、16年6月に始まったモンゴルも27%だった。

 どうしてそうなるのか。FTAの関税減免措置を受けるためには輸出する製品がどの地域で生産されたかを証明する原産地証明書が必要になるが、手間がかかったり申請方法が分からなかったりして利用しない中小企業が多いからだという。

 FTAの関税減免、企業利用45%どまり ジェトロ調査 日本経済新聞 17.4.21

 FTA、あるいは二国間またはTPPのような地域自由貿易協定(RTA)は新たな貿易を創出することで経済成長を加速すると信じられている。わが国指導者がやみくもにTPPを追求してきたのもそのためだ。

 しかし、はるか昔、WTO2003年世界貿易報告は既に、既存の多くのRTAについて、加盟国間の貿易が拡大したとか、域外よりも急速に拡大したという経験的証拠はないとして、その有力な理由の一つとして原産地規則の要件を満たすためのコストを上げている。そのコストは特恵により与えられる利益よりも大きく、貿易業者が特恵待遇の享受を断念する場合もあるというのである(WTO世界貿易報告、地域貿易協定に懸念  農業情報研究所  03822日)。

同じことが、わが国が結んできたFTA(EPA)についても起きている。わが国の主要EPA締結国に対する輸出額が拡大した「経験的証拠」は確かにない(下図 財務省貿易統計から作成)。その有力原因(の一つ)が「特恵待遇の享受を断念する」輸出企業が多いことだということも確認されたわけだ。

分らないのは、多くの輸出企業が関税減免措置を利用しないのは何故かということだ。「原産地証明書の取得に「手間」がかかるとか、申請方法が分からない中小企業が多いというだけのことなのか。大企業でも57%が関税減免措置を利用していないとなれば、必ずしもそれだけではなさそうだ。

例えば、原産地規則を満たすためには安価な非締約国原産原材料・部品の使用を断念、より高価な締約国原産の原材料・部品に切り替えねばならない場合もあるだろう。それによるコスト増が関税減免による利益を上回る、つまり「原産地規則の要件を満たすためのコスト」が「特恵により与えられる利益」も大きい場合もあるのではと推測される。

とすると、RTAが必ずしも貿易創出・拡大に結びついていないのは、原産地証明書取得の難しさというより、「例外なき貿易自由化どころか、例外なき囲い込み貿易」をめざす「トータリー・プレフェンシャル・パートナーシップ」協定(TPPとは「トータリー・プレフェンシャル・パートナーシップ」=「全く差別的パートナーシップ」 農業情報研究所   11.12.6)というその本性のためではないか。経験に学ばぬ安倍政府は性懲りもなく、米抜きでもTPP発効を目指すそうである。

TPP 米抜きでも変えず 政府、10カ国と調整へ 日本経済新聞 17.4.21

米抜きTPP推進に舵 11カ国、5月に閣僚協議 日本経済新聞 17.4.15