農業情報研究所グローバリゼーション二国間関係・地域協力>意見:2015年12月13日

日本マスコミも漸くお目覚め 「TPP発効に暗雲」 農業者はTPP対策よりTPP批准阻止を何故言わない?

 日本メディアが今頃になってTPP発効しないかもしれない、「日本政府はTPP対策を盛り込んだ予算案の編成を急いでいるが、見切り発車となる恐れも出てきた」などと言いはじめた(米議会承認「大統領選後」発言 TPP発効に暗雲 東京新聞 15.12.13 朝刊)。米上院共和党リーダーのマコネル院内総務が今年11月の米大統領選挙前にはTPP批准にかかわる米議会審議を始めないと表明したという12日のワシントン・ポスト紙の報道を受けたものだ(McConnell warns that trade deal can’t pass Congress before 2016 elections,The Washington Post,12.12.12)。

 しかし、米議会のTPP批准審議が大統領選が終わるまで始まらないだろう、審議が始まっても承認されるかどうかは極めて不透明というのは米国内ではとっくの昔から言われていたことだ(TPP 102日合意でも米議会投票は早くて来年2月半ば 限りなく遠のく批准 パブリック・シチズン,15.9.27;恐れていた以上に悪い 米共和党議員のTPP評 米批准に黒雲,15.11.12)。従って当方は、政府や与党が講じるというTPP対策に関する大々的報道も、政府・与党に万全な対策をと要求する農業団体や政党の動きも、一切無視してきた。そんなことはTPP発効が確実になるか、米国抜きでも発効させようという合意ができてからでいい、政府・与党の対策を大々的に報じことは参議院選挙に向けたそのキャンペーンを後押しすることにもなりかねない、農業団体も今は対策を要求するのではなく、その批准阻止にこそ全力を上げるべきと考えるからである。

 ところがところが、今や何と、「調印中止よりは政府に実のある対策を求めるのが肝要」と、TPP調印中止陳情を不採択にする自治体まで現れる始末(農民連が提出 TPP調印中止陳情を不採択 十勝毎日新聞 15.12.11)、政党、政治家の方向感覚は完全に狂っている。

 そもそも、「実のある対策」とは何なのか。農業農村整備事業(大区画による生産性向上)、畜産クラスター事業、産地パワーアップ事業(果樹・野菜)の拡充?そんなことで世界最強の農業国と対抗できるとでも思っているのだろうか。例えば牛肉の内外価格差は下図のようなものだ。生産コスト削減、環境や食品安全が犠牲にならないかぎり結構であり、必要なことでもある。だが、それが価格で外国品と対抗するためであるとすれば全然無意味だ。こんな価格差、逆立ちしても埋まるはずがない(注)。何が「実のある対策」だ。「実のある対策」を求めてのTPP受け入れは日本畜産破滅への道に他ならない。

 (注)このような「格差」と言うべき価格差をもたらす「生産性格差」、「国際競争力の格差」を規定する要因は経営=農地規模の影響をあまり受けない生物・科学的技術の差ではなく、農地規模の制約が避け難い機械的技術(耕耘や収穫など技術)の差である。それは農地の賦存量に決定的に依存する。構造改革=大規模化はこの制約をある程度緩めるとしても、民主主義と私有財産(国有・集団所有)を前提とするかぎり、不可能でないとしてもきわめて困難で、予見不能な長期的課題となる。少なくとも現政権が言うような2020年実現などあり得ない(民主主義と私有財産制を放擲する革命でも起こすならはなしは別だが)。