EU、除草剤アトラジン禁止へ、英国のGMトウモロコシ承認にも余波

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.13

 世界的な農薬・種子・バイテク企業であるシンジェンタ社が10月4日、とりわけトウモロコシ栽培の除草剤として世界中で広く使われているアトラジンとシマジンの認可の更新がEUの規制機関である「食品チェーン・動物保健常設委員会(SCFA)」によって拒否されたことを明かにした(EU re-registration of atrazine not granted despite favorable science review)。SCFAの最終決定は未だ見ることはできないが、当事者の発表であるから間違いないであろう。フランスでは今年6月からアトラジンの販売が禁止されるなど(フランス:除草剤・アトラジンを禁止へ,01.10.1)、既に多くのヨーロッパ諸国で販売と使用が禁止されているが、この決定により、英国など、他のEU諸国でも1年以内に全廃されることになる。これは、EUの植物保護製品(PPPs)に関する指令(91/414)に基づく既存のすべてのPPPsの見直し措置の一環をなすものである(⇒EU:2003年に320の農薬使用物質を撤去,02.7.8;EU:回収農薬物質に110を追加、実行に不安,03.7.9)。

 シンジェンタ社は、既に販売が停止されているドイツやイタリアに向けて代わりの製品を販売しており、これを他のEU諸国にも拡張する。同等の製品ではないが、EUの決定のトウモロコシ栽培者への影響を和らげるのに役立つだろうと言う。ただ、この決定は、英国における遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの導入の決定にも、とんだ余波を生みそうである。

 既に報じたように(英国:GMナタネ・ビートは環境に有害、実験評価報告が不許可を主張か、03.10.2)、3年間のGM作物フィールド実験で、除草剤耐性GM油料種子ナタネ・シュガービートの栽培に使われる除草剤(グリフォサート)の昆虫等への影響は、通常栽培に使われる除草剤の影響より大きく、16日に発表される予定の実験評価報告はこれらのGM作物の導入をやめるべきだとしているといったマスコミ報道が流れている。しかし、GMトウモロコシについては、通常栽培に使われるアトラジンの昆虫等への影響は、グルフォサートよりも大きいとして、GMトウモロコシ導入は認められそうだと報道されていた。ところが、比較対照される除草剤の一方が廃止されれば、この結論は無効になってしまう。代わりに使われることになる除草剤を使っての改めての実験が必要になるであろう。

 インディペンデント紙(How GM crop trials were rigged,10.12;Flaw in crop trials destroys government case for GM,10.12)によると、実験を立ち上げた前環境相・ミーチャーは、実験はすべてやり直さねばならず、それが終わるまでは政府が責任あるGM作物承認はできないと語ったという。GM作物導入を急ぐ政府への逆風は強まるばかりのようだ。

 なお、アトラジンについては発癌性や環境ホルモン作用などの悪影響が疑われてきた。

 関連情報
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 アトラジンの環境ホルモン効果を再確認、米国チーム,02.11.1
 
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