農業情報研究所

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ブラジル、GM作物合法化か

農業情報研究所(WAPIC)

03.9.25

 25日付のニューヨーク・タイムズ紙の報道(Brazil to Lift Ban on Crops With Genetic Modification)によると、ブラジルが今日、遺伝子組み換え(GM)作物の栽培にゴー・サインを出す。副大統領がGM作物禁止を解除すると語ったという。

 取り敢えずは今年収穫されたGM大豆の販売を合法化した政令(⇒ブラジル:GM作物を禁止 既不法栽培収穫の輸出は許可,03.3.18)の拡張を行ない、10月の作付に間に合わせるが、政府関係者は、これが今年議会に送られるGM作物解禁の立法への道を開くと考えている。ブラジルでGM大豆の違法栽培が広範に行なわれていることは公然の秘密であり、現実の追認に過ぎないが、現実には重大なインパクトを持つであろう。合法化によりGM大豆栽培農場が大きく増えることも予想されるだけでなく、世界第二の大豆生産国がGM導入に踏みきったとなれば、GM作物導入に抵抗してきた途上国等、多くの国も追随する可能性がある。そうなれば、GM作物をめぐる「世界戦争」(注)のバランスが一気に崩れ、バイテク企業による種子市場の世界制覇の野望が実現することになる。消費者の抵抗もそれまでである。

 ルーラ・ダ・シルヴァ大統領は、選挙前、環境保護団体や早期の土地改革を求める土地無し農民運動に同調する姿勢を見せていたが、最近は環境・小農民保護よりも、経済開発・輸出促進優先に傾いていた(⇒ブラジル大豆生産が急増、アマゾン破壊に拍車,03.9.19)。GM作物解禁に強く抵抗してきたマリア・シルヴァ環境相と、ロドリゲス農相を中心とするGM促進派の政府部内のバランスが崩れたものと思われる。ブラジルの大豆生産は過去5年間で60%も増加、今年の輸出は昨年より34%増えて、世界トップの輸出国となったが、いずれ生産も米国を抜いてトップに踊り出るであろう。

 ただ、ヨーロッパや日本の市場がGM大豆を簡単に受け入れる情勢にはない。中国市場や国内牛の飼料用の需要が拡大しているかぎりは成長が見込めるが、やがて行き詰まることになるかもしれない。貿易摩擦がますます激しくなり、WTO貿易交渉も一層複雑化し、難しくなる可能性がある。GM解禁がブラジルに吉と出るか、凶と出るか、即断はできない。

 輸出拡大ー貧困撲滅がブラジル政府の狙いであるが、GM作物導入は巨大農場の土地集中を加速、貧困層を一層増大させる恐れもある。土地無し農民運動グループは、23日、予想されるGM解禁に抗議して農業省に押しかけた。モンサント社は先週、GM大豆の非合法栽培に特許料支払いを求める決定を行なったが(モンサント、ブラジルの違法GM大豆輸出企業に補償を求める,9.22)、合法化されればそんな面倒もなくなる。利益を上げるのはモンサント社だけかもしれない。

 (注)北林寿信 遺伝子組み換え作物「世界戦争」 『世界』2003年10月号参照。