GMOの利益とリスクの間で板ばさみのジンバブエ指導者ー英国NPOが報告

農業情報研究所(WAPIC)

06.3.15

 米国政府がEUの遺伝子組み換え体(GMO)新規承認の事実上のモラトリアムをWTOに訴えた最大の動機は、GM作物・食品の導入をためらう多くの途上国によるその導入を促進、農業バイテク企業の世界の種子市場制覇に向けた戦略を手助けすることであった。EUのモラトリアムやGMO規制がこの戦略完遂の最大の障害となっていると見たからである(米国、GMO規制でEUをWTO提訴、欧州委は断固反論,03.5.14)。この紛争に関するWTO紛争処理パネルの仮裁決が出たいま、多くの途上国によるGM作物・食品の導入が促進されるだろうという見方が広がっている。

 新たにその導入に踏み切るを見られる最も有力な候補国がアフリカ諸国だ。打ち続く干ばつで慢性的な食料不足と栄養不良に悩まされるアフリカ諸国は、その導入の誘惑に駆られるとともに、バイテク企業の売り込みも激しい。しかし、これら諸国は本当にGMOを易々と受け入れるのだろうか。バイテク企業の戦略が近い将来に実を結ぶことはあり得るのだろうか。大きな疑問がある。

 昨日は、GMO導入にますます大きなためらいを見せるウガンダの状況を伝えた(モンサントがGM”自殺種子”の開発・利用を画策 ウガンダで高まる不安の声,06.3.14)。それに続き、今日はバイオテクノロジーがもたらす利益とリスクの間で板ばさみになっているジンバブエの状況を紹介する。これも昨日と同じく、PANOS Londonの報告が伝える状況だ。状況が生々しく感得できるように、そのウエブサイトに掲載された報告のほぼ全文を翻訳紹介することにした。

 農業成長を求めるジンバブエ、GM作物が誘惑する

 GM crops beckon as Zimbabwe seeks farm growth,PANOS (London),3.13
 http://www.panos.org.uk/newsfeatures/featuredetails.asp?id=1231

  バイオテクノロジーはトウモロコシとワタの生産を大きく増やすことができ、飢餓の軽減と外貨準備の増加を助けるだろう。しかし、遺伝子組み換え体(GMO)の健康・環境リスクがこれらの約束と比較考量される必要がある。ジンバブエの政策立案者がバイオテクノロジーのもたらす利益とリスクの間で板ばさみになっている。

慢性的食料不足と政治的不安定に直面するジンバブエが、今、新たな問題に取り組まなければならなくなっている。農家がGMOを栽培することを許すかどうかの問題だ。

ジンバブエではGMO栽培は禁止されている。健康・環境リスクがあるかもしれないからだけでなく、EUGMOを含むいかなる食品も輸入しないからだ。

しかし、20062月、GM技術を含むバイオテクノロジーの著名な唱道者であるヒューストン大学のトム・ドゥ・グレゴリー博士がムガベ大統領の招きでハラエを訪問、国がバイオテクノロジーを受け入れるように要請した。教授は、農業と保健へのバイオテクノロジーの適用により、国の運命を変えることができると語った。

彼は、ジンバブエ大学で、アフリカ諸国は中国やマレーシアの前例に従い、バイオテクノロジーを通して農業生産性を改善すべきだと講演した。「バイオテクノロジーは土壌保全、病虫害の軽減をもたらし、収量を増加させる」と言う。

このコメントは、GM植物がジンバブエに導入されるかもしれないという憶測を誘発した。

一部農民は、非GM植物の汚染を含むGMOに関連した恐れに目覚めているとはいえ、今までのところ、この問題に関する国民的論議はほとんどない。

生物多様性条約の下で、政府にはGMO導入の前に国民に知らせ、意見を聞く責任がある。しかし、実際には、ジンバブエ政府は、このような相談が最も必要なときに、農民との協議をほとんどしてこなかった。バイオテクノロジーの安全な適用を促すことを求めるように見える法案が議会下院に提出されようとしている。

法案は、ジンバブエにおけるバイオテクノロジーの輸入、研究、開発、生産、利用を管理する責任をもつ国家バイオテクノロジー機関の設立を求める。法案は、バイオテクノロジーの導入が健康、環境、経済、国家安全保障、社会的規準と価値に悪影響をもたらさないように保証することも求める。

この法案の下では、GM作物の販売と生産や近代的バイオテクノロジーの研究を促進する国家バイオテクノロジー基金が設立されることになるだろう。それは、科学技術開発大臣に、バイテク製品の生産者、加工者、購入者からバイオテクノロジー基金を賄うための税徴収の権限を与える。

この動きは、主として換金作物、特にワタの生産を促進し、ジンバブエの外貨準備を増やすことを目指している。

科学技術開発大臣のオリビア・ムシェナ博士は、「バイオテクノロジーは外貨準備を増やすために輸出もできる食料生産の増加を通して我々のビジネスのやり方を革命しようとしているのだから、我々が来るべきバイオテクノロジーを取り込むスピードが遅いことは、まことに意気を阻喪させる」と言う。

しかし、彼は、「GMOは食べると安全でないかもしれないというバイオテクノロジーをめぐる心配もあり、これらの心配はオープンに議論される必要がある」と認める。

専門家は、GM作物普及における中国企業の潜在的役割にも注目する。中国人はジンバブエの農村地帯に深く進出しており、西側世界からの孤立を深めるムガベ大統領も、中国やその他のアジア諸国からの投資の促進を目指す“ルック・イースト”政策を採用してきた。

大統領は最近、「我々は成長の機会を探求し、経済的結びつきの強化を求めて、東への転換を続ける」と表明した。

ジンバブエと中国は、特に乾燥処理タバコとワタの生産に中国が資金を供給するいくつかの経済協定も結んだ。その結果、ワタ産業消息筋は、今年の生産は大きく増加すると予想している。

しかし、中国人が運営する農場は厳格なバイオセーフティー管理に従わない恐れがある。例えば、中国と他の外国企業の農業参入ののちに、一部農民は害虫の抵抗性発達を抑えるための管理計画なしでBtワタの違法な屋外試験を行った。

そでで待機しているのは中国人だけではない。1998年、世界最大の農業バイテク企業・モンサントは、公式許可なしでBtワタを栽培した。しかし、土地省がそれを発見、開花前の焼却処分を命じた。

スイスの巨大多国籍企業、シンジェンタもバイオテクノロジー法案に関する論議の行方を見守っている。シンジェンタは、ジンバブエ最大の種子生産者であるSeed Co社の重要株主であり、そのスポークスマンはGM作物が農民を豊かにすると信じると言っている。

彼女は、我々は最善の製品を提供しており、農民は実際に利益を享受、ジンバブエの食料自給を確保するだろうと言う。

過去5年、ジンバブエはトウモロコシの凶作に対処せねばならなかった。それは、南アフリカ、アルゼンチン、ブラジルなどからの穀物輸入を強制した。

しかし、食料自給の約束はGMO利用のあり得る悪影響とバランスが取られねばならない。

例えば、GM作物の合法化はジンバブエのEUへの輸出を危機に陥れる恐れがある。ジンバブエは、EUに毎年、9100トンのGMフリー牛肉を輸出できる特恵協定の恩恵に浴している。厳しい外貨不足に直面している国にとって、これは死活的に重要である。

国民的論争は未だないが、農業政策にかかわるジンバブエの要人の間には様々な見解がある。

ムタサ土地・土地改革・殖民大臣は、ジンバブエは主として健康上の理由からGMOを疑っていると言う。

彼は、「我々はGMO食品を輸入しないだろう。この政策に変化はなかったし、近い将来も変わらない。未製粉のトウモロコシは輸入しない[GMトウモロコシが混入し、栽培される恐れがあるために]我々の政策は不動であり、維持し続ける。これは見直されなかたったし、内閣はその立場を変えなかった」と語った。

ジンバブエ商業農業者同盟のダヴィソン・ムガベ会長も、科学者がGMOが有害かどうかはっきりさせることを望む、バイアスがかかったアプローチは望まないと言う。彼は、別の証明があるまでは、GM種子には重大問題があると信じており、他の多くの農業者も同様と言う。

最近は、環境汚染をめぐる大きな心配も現れている。国立科学技術大学のエディー・ムウェンジェ博士は、最近の新聞で、「我々は分析を始めたが、今までのところでは遺伝子が自然環境に移転している可能性が高いことが分かった」と言っている。

強い影響力をもつ農業大臣・ジョセフ・メイド博士は、GMOの導入ーGMO食品の大規模導入ーには用心が必要だ、それは作物と土壌の肥沃度に回復不能な損害を引き起こす可能性があると警告する。

彼は、「もし我々が広範囲にわたる研究なしにGMOを導入すれば、後悔することになるだろう。皆も知るように、科学に正確さはない。間違いが起こり得る。だから、我々は急がずに、真面目な研究の後に導入する必要があり、これはアフリカに欠けてきたことだ」と言う。

彼は、さらに次のように言う。

「研究者にはアレルギーやその他の関連した問題などを調べる保健職員も含まれるべきだ。消費者も我々がどれほど生産すべきかを決める。自然をいじくるまわすときには注意深くなる必要がある」。

「私の関心は生産サイドにある。GMOに関係する何事も我々の生物多様性を破壊してはならない」。

ジンバブエやその他の南部アフリカ諸国が産業によりGM作物を導入する潜在候補国として推薦されていることに疑いはない。しかし、これら作物が導入されるとしても、あるいは多国籍企業が苦労して種子市場の制覇に成功するとしても、それに何が続くかについては不確実性がある。

(以上)

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