EU閣僚 オーストリアGM作物禁止解除を求める欧州委提案を圧倒的多数で否決

農業情報研究所(WAPIC)

06.12.25

  12月18日に開かれたEU環境相理事会が、オーストリアの二種の遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの利用と販売を禁止する措置の解除を求める欧州委員会の提案を圧倒的多数で否決した。この提案に賛成したのは、EU25ヵ国中の4ヵ国ーイギリス、オランダ、チェコ共和国、スウェーデンーに過ぎなかった。オーストリアのこの禁止措置は、EUレベルで承認されたいくつかのGM作物をなお禁止するベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルグの措置とともに、WTO紛争処理委員会によっても違法とされたものだ(WTO 米欧GMO紛争で最終報告 勝者も敗者もない無意味な貿易紛争,06.9.30)。EU諸国の意思決定がWTOのこのような裁決に左右されるものではないことが鮮明に示されたわけで、欧州委員会は出口がみつかりそうにない難局を迎えたことになる。

 2773rd Environment Council meeting - Brussels, 18.18.2006 (provisional version),12.20

 問題のGMトウモロコシはバイエル社のT25とモンサント社のMON810で、オーストリアは、EUレベルで承認されたにもかかわらず、長期的健康影響のテストが行われておらず、それらの輸入は種子の環境中への偶然の漏出につながる恐れがあるなどとして、1999年と2000年に国内での利用と販売を禁止した。

 これは、EUの90年指令が定める”セーフガード”条項に基づくもので、この条項は2001年改正指令にも含まれる。それは、EUレベルで承認されたものでも、なお健康・環境リスクがある考える新たな証拠を示す場合には、加盟国が一時的に利用と販売を禁止できるとするものだ。加盟国が示す証拠がEUレベルの再評価で否定された場合には、この禁止は解除されねばならない。欧州委員会は、加盟国が示す証拠をことごとく否定する再評価結果を盾に、これまで禁止解除を要求してきた。しかし、多くの加盟国は納得せず、欧州委員会と延々と争ってきた。

 環境相理事会は2005年6月24日、なお禁止を続けるオーストリアを含む5ヵ国に対して禁止解除を求める欧州委員会の提案を25ヵ国中22ヵ国の反対で退けている。禁止継続に圧倒的支持が集まったのは、殺虫成分を生成するBtトウモロコシを食べさせたネズミの腎臓は小さく、血液成分にも変化があったというモンサント社の秘密研究の存在が暴露されたためという(モンサントのGMトウモロコシ・MON 863、健康悪影響を示唆する秘密研究が露見,05.5.26;欧州委、一部加盟国のGM作物栽培禁止の解除に失敗 米国の一層の攻撃に直面,05.6.25)。

 これを受けた欧州委員会は、欧州食品安全機関(EFSA)に改めて諮問、今年3月、これらの販売の継続が人間と動物の健康と環境に悪影響を引き起こすことはありそうもないと結論するEFSAの意見を引き出した(欧州食品安全機関の意見 一部加盟国が禁止を続けるGMOにリスクなし,06.4.14)。この意見に基づき、今年10月、改めてオーストリアの禁止解除を求める提案を行った。しかし、この提案も12月18日の環境相理事会が圧倒的多数で否決してしまったわけだ。

 環境相理事会は、@MON810とT25は、2001年指令にとって替えられた90年指令に従って承認されたものであるが、これら二つのGM製品は、環境リスク評価基準を改めた2001年指令に従った再承認と再評価を未だ受けていない、A環境リスク評価においては、EUにおける農業構造の違いや生態系の地域的特徴がもっとシステマチックに考量される必要がある[小規模農家が支配的なオーストリア農業は有機農業に活路を見出してきた。GM農業とGMゼロが基準の有機農業の”共存”はほとんど不可能だから、GM農業導入でオーストリア農業は巨大な損害を蒙ることになるだろう。EUには、オーストリア以外にもこのような地域が無数にある]、などの理由でこの決定を正当化したという。

 地球の友・ヨーロッパは、「今日の投票はGM食品に関するWTOの裁定の完全な拒否だった。これはバイテク産業と欧州委員会の中のその友人たちにとっての大きな敗北だ。すべての国がその市民と環境を保護する民主的権利を持たねばならない。欧州委員会も、WTOも、ヨーロッパ人にGM食品を食べるのを強制することは許されない」と、この決定を大歓迎している。

 それは、「WTOの裁定はGMO禁止そのものに対する判決ではなく、オーストリアがWTOの貿易ルールの下で必要になるリスク評価に従わなかったと判断したものだ」。オーストリアはすべてのEU加盟国とともに、安全性をめぐる科学的確実性が欠けているならばGM作物を禁止することを各国に許す国連バイオセーフティー議定書を批准しており、貿易紛争提訴国(米国、カナダ、アルゼンチン)が批准していないためにこの議定書を無視したWTOに従う必要はないと言う。

 EU votes to defy WTO ruling on GM foods,12.18
 http://www.foeeurope.org/press/2006/HH_18_Dec_Austia_ban_reaction.htm