農業情報研究所農業・農村・食料欧州ドキュメント:21 年10月24日

 

EUの有機アクション・プラン 2030年までに有機農地面積シェアを25%に

 

農業協同組合研究会が1127日(土)、『徹底討論どうみるどうするみどりの食料システム戦略EU「農場から食卓へ戦略」との対比を通して考えるー』を東京・大手町のJAビルの会場とオンラインで開催するそうである。

 

「『みどりの食料システム戦略』については、2050年の有機農業の取組面積割合25%(100ha)という目標がセンセーショナルに取り上げられているが、戦略の内容についての正確な理解の前に賛否の議論が先行している。

EUの「農場から食卓へ戦略」から新CAP案に至る農政において確認されるように、気候変動や生物多様性等に対応した新たな農業政策の確立はすでに世界的な潮流となっている。

みどり戦略はこうした世界的な潮流に対応した日本農政の新たな方向を指し示すもので、食料・農業・農村基本計画等を含む他の政策との密接な連携の下に一層の具体化が求められ、食料・農業・農村基本法に改変を迫る内容をも有している。

同研究会では、政策再編が先行するEUの経験を紹介し、研究者が吟味。次いでみどり戦略についての全体像と農政上の地位についての包括的な話を農水省の事務方トップに聞く。さらに、質疑・討論により、みどり戦略についての理解を深める」という」(EUとの対比から考える「みどりの食料システム」農業協同組合研究会・農協協会共催 農業協同組合新聞 21.9.30)。

 

しかし、EUの「農場から食卓へ戦略」(Farm to Fork Strategy)とはいかなるものなのか。その概要は、JETROEUの「Farm to Fork(農場から⾷卓まで)」戦略についてで知ることができる。しかし、その重要な一部をなし、上記討論でも関心を引くだろうEUの新たな有機農業アクション・プラン(Organic Action Plan)については詳しい紹介はない。

 

そこで、ここに、このアクション・プランとはどんなものなのか、EUHPから紹介することにした。

 

EU有機農業アクション・プラン
 

Organic Action Plan

 

このプランはヨーロッパグリーンディールの核心をなすFarm to Fork Strategy(農場から食卓戦略)の一環をなすもので、2030年までに全農地中の有機農地面積の比率を25%に増やすことで2050年までにカーボンニュートラルを実現するというグリーンディールの目標達成に寄与することを狙っている。

 

ちなみに、2019年のEU28ヵ国の有機農地面積比率7.92%である。フランスは7.72%、ドイツは7.75%で、大国の有機農地面積は10%に達しない。10%を超えているのは、ギリシャ、イタリアと中東欧の中小国、20%を超えているのはエストニア、スウェーデン、オーストリアの3ヵ国のみである。目標達成は相当に難しいように見える。

しかし、このプランは201420年のアクションプランの達成を基礎に、2020年の9月と11月の公聴会(public consultation)を経て策定されたというから、成算が見込まれているのだろう。

新プランは、食料供給チェーンの構造とグリーンディールの持続可能な目標を反映した相互に関連した次の三つの軸に分けられる。

 

第一の軸:需要を刺激し、消費者の信頼を確保する。

第二の軸:転換を刺激し、ヴァリュー・チェーン全体を再強化する。

第三の軸:環境の持続可能性への有機農業の貢献の改善。

 

.三つの軸は、23のアクションに支えられる。これらアクションの実施のために、CAP(共通農業政策)の諸手段が総動員される。従来の有機農業財政支援が継続されるとともに、新CAPのエコスキームを通して利用可能になる追加資金や増額される農村開発基金を通して提供される。この支援には技術支援や有機の最良慣行や革新の交換も含まれる。農業助言サービスは、知識交換を推進するために、とりわけ農業知・革新システム(AKIS)の一環として強化される。

 

*直接支払予算の少なくとも25%が有機農業、アグロエコロジー、炭素農業などの候・環境に優しい農業慣行とアプローチに強力なインセンティブを与えるエコスキームと、気候変動・生物多様性・環境・動物福祉を支援する措置に少なくとも基金の35%を配分する農村開発措置。

 

さらに、欧州委は、農業・林業・農村地域の分野における特殊な問題や有機部門に関連する革新行動に研究・革新予算の30%を充てる。

 

第一の軸、需要の刺激と消費者の信頼の確保

 

2020年のEU農業とCAPに関するユーロバロメーターによると、EU市民は有機製品が農薬・肥料・抗生剤に関するルールに従っており(82%)、環境に優しく(81%)、動物福祉を尊重している(80%)と見ている。56%が有機ロゴを認識しており、この比率は2017年の27%から大きく上昇している。

 

最近10年で有機製品の小売額は128%増加した(2009年の180億ユーロから2019年の410億ユーロ)。一人当たり年84ユーロを支出している。

農民の有機への転換を促すためには有機製品の消費の増加と消費者の信頼の強化が不可欠である。成長の継続し、有機事業者が利益を上げられる市場を維持するために、

 

・有機農業とEUロゴをプロモートする。

・有機食堂をプロモートし、グリーンな公共調達利用を増やす。

・有機学校給食スキームを強化する。

・食品偽装を防止し、消費者の信頼を強化する。

・トレーサビリティを改善する。

・民間部門を助長する。

 

第二の軸、生産と加工を刺激する

 

有機農地のシェア拡大にはサプライチェーンの全段階の更なる発展が必要だ。地方的生産奨励、短い流通経路により、農民が有機製品の付加価値からフルに利益を得ることを可能にする。

 

有機農地面積のシェア20年で66%増加した。2010年の830万㌶が2019年には138万㌶に増えた。現在のシェアは8.5%である。

 

生産と加工の前進を続けるために、

 

 ・転換、投資、最良慣行の交換を奨励する。

 ・市場の透明性を増すために部門分析を発展させる。

 ・フードチェーンの組織化を支援する。

  ・地方的・小規模加工を強化。

  ・有機ルールに従った動物性食品の改良。

  ・有機養殖の強化。

 

第三の軸、環境持続可能性の強化

 

有機農地の生物多様性は通常農地より30%豊かだ。例えば、有機農業はポリネーターに有益だ。有機農業では化学農薬や合成肥料の使用は許されない。加えて、遺伝子組み換え体の使用やイオン化放射線の使用は禁止され、抗生剤使用は厳しく規制されている。

 

しかし。有機農業の環境影響を減らす改良された有機農業方法を探求することは重要だ。委員会は、以下の行動を通じて、有機部門の持続可能性と環境への挑戦への貢献をさらに改善する。

 

・気候・環境フートプリントを減らす。

・遺伝的生物多様性を強化し、収量を増やす。

・議論のあるインプットや他の植物保護製品の代替品を開発する。

・動物福祉を強化する。

・資源利用を一層効率的にする。

 

Current legal basis for organics in the EU, until 31 December 2021

Future legal basis for organics in the EU, as of 1 January 2022

追記:21.10.25

 日本農水省の 「緑の食料システム戦略」は、有機農業に関して、

2040年までに、主要な品目について農業者の多くが取り組むことができるように、次世代有機農業に関する技術を確立する。

2050年までに、オーガニック市場を拡大しつつ、耕地面積に占める有機農業の取り組み面積の割合を25%(100ha)に拡大することを目指す。

と言うのみである。「次世代有機農業」の説明はないし、10年後ならともかく、20~30年後の世界の姿など想像もできないから、EUとの対比を通して考えるなど、そもそも無理なはなしである。

<参考>

フランス 公共団体食堂の食事は有機産品等を50%以上含まねばならない 農業情報研究所 18.5.27

EU 高品質・安全・動物と環境に優しい農産物の販促支援で農業の成長を助ける 農業情報研究所 15.11.29

フランスの多様な農業 日本の大規模能率的農業育成農政の反省の一助とするために 農業情報研究所 14.11.10

フランス農業省、有機農業振興策を発表―飛躍的発展は疑問 農業情報研究所 04.2.3

フランス:有機農業経営の現状  農業情報研究所 01.11.5 

 

福士正博・四方康行・北林寿信著 ヨーロッパの有機農業 家の光協会 1992
特集 食料システムの在るべき姿とは~環境保全型の農業の推進jに向けて~ グローバルネット 371号 2021.10