農業情報研究所

HOME グローバリゼーション 食品安全 遺伝子組み換え 狂牛病 農業・農村・食料 環境 ニュースと論調

EU:欧州議会委員会、CAP改革案で合意

農業情報研究所(WAPIC)

03.5.23

 EU共通農業政策(CAP)の改革について閣僚理事会との「共同」決定権をもつ欧州議会の農業委員会は、5月21日、様々な利害をもつ国々と政治グループを代表する議員の間での長時間の激しい論議の後、欧州委員会の改革案に関する報告を採択した(CAP mid-term review: basic consensus on decoupling and modulation)。700を超える修正案が論議され、最終報告は賛成23、反対10、棄権1で採択された。

 最終報告は、主に農業者援助の「デカップリング」と「モジュレーション(減額調整措置)」の二つの分野に関係する14の「妥協的修正」を採択した。欧州委員会は、援助のほぼ全面的なデカップリング(補助金と生産の関連の切り離し)を提案しているが、議会農業委員会は「部分的」デカップリングを要請した上に、この部分的デカップリングは穀作部門と牛肉部門に限るべきだとした。2004年以後、穀作作物を生産する農業者と雄牛部門の一定補助金の受領者のための所得・土地占用援助からなる「多面的機能支払計画」が提案された。他の全部門への援助は生産との関連を維持、ただし蛋白質作物、ナッツ、エネルギー作物の生産者には追加支援も提案されている。農業委員会は、全面的デカップリングにより条件不利地域で農業者が農業放棄に追い込まれ、過疎化と地域格差拡大のリスクが高まることを恐れるという。このように部分的デカップリングの合意はできたものの、援助の何%までデカップリングすべきかについては意見の違いが大きく、報告に盛り込めなかった。

 欧州委員会は、2006年の1%削減から始めて2012年の19%削減まで、直接援助を段階的に削減する「漸減(degression)」を提案している。欧州委員会は、これらの削減の影響を緩和するための追加支払も提案、さらに年に5千ユーロ以下の直接支払を受け取る農業者には免除される減額調整を行い、これによる節約分は環境措置や様々な農業部門に当てること(モジュレーション)を提案している。農業委員会は、直接支払の一定の減額は認めたが、これは年に7千500ユーロ以上を受け取る農業者にのみ適用するとされ、「漸減」は拒否した。これらの削減によって得られる資金は、全額をCAPの第二の柱(農村開発措置と環境措置)に投入、モジュレーションは一定の地域基準を利用して最貧地域を支援するためにに適用されるという修正案も通った。また、年に7千500ユーロを超える直接支払のみが2006年以降に減額され、この減額は条件不利地域では年ごとに6%、その他の地域では年ごとに8%とするとされた。モジュレーションにより節約された資金は、各国がその各地域に交付できるように、各国に配分される。

 欧州委員会の改革案を大きく後退させるものであるが、EUの中東欧への拡大がもたらす状況の変化、WTO交渉、次期財政展望(2006−13年)でCAPが直面するであろう資金削減に対処するために、CAPは緊急の改革を要するという点は農業委員会も認めている。今回の報告は、6月に決着を目指す改革のある程度の具体像を初めて示したものとして注目される。閣僚理事会の議論は方向を見出せないままである。

関連情報
EU:CAP改革で非公式閣僚会合、6月決着を目指す,03.5.13
CAP改革、EU11ヵ国がデカップリング拒否,03.4.13
CAP改革の影響評価発表ー農業交渉の立場強化に必死の欧州委員会,03.3.27
欧州委員会、CAP改革案を提案.03.1.23(1.24追記)
EU共通農業政策改革案に関する欧州委員会メモランダム(その2),03.2.7
EU共通農業政策改革案に関する欧州委員会メモランダム(その1),03.2.6